大判例

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福岡地方裁判所 昭和34年(ヨ)140号 判決

申請人 遠藤長市

被申請人 三井鉱山株式会社

主文

本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

第一、当事者双方の求める裁判

申請人代理人は「申請人が被申請人に対して雇傭契約上の地位を有することを仮に定める。訴訟費用は被申請人の負担とする。」との判決を、被申請人代理人は主文同旨の判決を、求めた。

第二、申請人の申請の理由及び被申請人の主張事実に対する答弁

一、当事者

被申請人会社(以下会社という)は肩書地に本店を有し、石炭の採掘販売を業としている株式会社である。

申請人は会社経営の三池鉱業所に勤務している鉱員であつて、三池炭鉱労働組合の組合員である。

二、解雇の通告

会社は昭和三四年四月一六日申請人に(一)昭和三二年五月一六日より同月二一日までの間カツペ、シユウの操作業務を拒否せしめた行為(二)昭和三三年七月一一日繰込時前日の不発残留マイト発生について係長の説明を要求して入坑を拒否せしめた行為(三)同月三〇日同僚の家族死亡の場合の葬式手伝の日報取扱に関し主席係員の説明を要求して入坑遅延に至らしめた行為(四)同年九月五日パンツア・コンベア故障時実績賃金の補償を要求して業務を放棄せしめた行為及び係員に対する暴行行為(五)昭和三四年二月五日ポンプ当番が早昇坑したため係員が機械工の転役を指示したところこれを拒否せしめた行為(六)同月一八日終端申継に関する説明を求めて紛糾させ入坑を遅延せしめた行為があるとし、右行為は労働協約第一二条第一項第一号(3)、三池炭鉱鉱員就業規則附属書第三号鉱員賞罰規程第八条第三号(ハ)に該当するとして解雇を通告した。

三、解雇事由の不存在

(一)  申請人には前記労働協約及び就業規則各条項に該当する行為はない。従つて本件解雇は右条項の適用を誤つたものとして無効である。

(二)  被申請人主張の具体的解雇事由に対する主張

1、会社主張第三、二冒頭の事実について

申請人が会社主張の期間三川鉱本層下部内に採炭工として勤務していたことは認める。

2、会社主張第三、二、(一)カツペ、シユウの件について

(1) 右主張事実中1について

三川鉱本層下部内で三川鉱と三川支部との間でカツペは払内又はゲートに準備することに取決められていたこと及び五月一五日三番方(丙方)において入坑が遅延したことは認めるが、申請人が主席係員の制止を排して勝手に採炭工全員を繰込場から外に連れ出したこと及び申請人が入坑を遅延させたことは否認する。その余の事実は争う。

従来の作業の方式ではカツペ及びシユウは払内のカツチング箇所に準備されており、カツペ及びシユウの払内運搬は採炭工の作業ではなかつた。ところが昭和三二年五月頃はカツペ及びシユウの不足のため止むなくこれを採炭工がカツチング箇所に運ばねばならなかつた。そこで採炭工はこのようなことをなくすため屡々カツペ、シユウの不足をきたさないよう会社側に申入れたが、改善されないので、申請人は同月一五日三番方(丙方)繰込前丙方主席係員に「カツペは常時カツチング箇所にあるように準備してもらいたい。そうでなければカツチング箇所にないカツペの払内運搬は採炭工では行なわない事態が起るかもしれない。従つて三日以内に本件に関して職場代表者と係長との話合を持つことを約束してもらいたい。」旨の申入れをした。これに対し主席係員は三日以内の勤務時間外に職場代表者と係長との話合を持ちたいと答えた。

(2) 右主張事実2について

五月一七日午后主張の時間に前々日の約束に従つて主張の話合いが開かれたこと、申請人等を含む職場代表者が実質的な話合に入る前に出席している各方代表者の出席時間中の賃金保障を要求して話合が進まなかつたこと、同日三番方(丙方)入坑後申請人がシユウの準備を係員に申入れたが、係員はこの申入れを断わり、次いで申請人が採炭工によるシユウの払内運搬を拒否したこと、同方作業中に担当係員が払長に短カツペを延長するよう指示したこと及び同方の採炭が減産となつたことは認める。前記話合の際係長が「出席者の賃金は保障しないことで了解が成立している。」と言つたこと、申請人が右話合の際係長に「これが容れられない以上は今後係長との苦情処理の話合は一切しない。又カツペ払において不測の事態が発生しても自分等の責任ではない。」旨述べて他の職場代表者に退去を使嗾したこと、申請人が職場分会長に主張の如き抗議を行ない、充填工の払内運搬を中止させたこと、申請人が係員の所に来て「保安とは危険な場所に行かないのが一番良い方法である。」と難癖をつけて保安作業を拒否したこと及び申請人が採炭工及び充填工によるシユウの払内運搬をともに拒否させたことは否認する。同方の減産の程度は不知、その余の事実は争う。

係長は一七日の話合のとき「五月一五日三番方(丙方)繰込時における話合では申請人等は勤務時間外に話合を持つことは了解していた。」と述べており、又一六日主席係員は勤務時間外に話合を持ちたいとは言つていたが、出席者の賃金を保障しないとは言わなかつた。また三川鉱では勤務時間外の交渉については賃金保障をしないという慣行もなかつた。

次に申請人は一七日三番方(丙方)入坑後休憩所到着と同時に休憩所に居た係員に「一寸遠慮してもらいたい。」と言つて席を外してもらい、そこに居た採炭工全員に代表者会議の決定事項を報告し、全員の確認を得た後、係員に、カツチング箇所より一〇メートル以外はカツペ、シユウの運搬を採炭ではしないので一〇メートル以内に準備するように申入れた。ところが係員が右申入れを断わつたので、申請人は「係員が我々の当然の申出を認めてくれないなら採炭工は本来採炭工の作業内容に含まれていないシユウの払内運搬はやらない。」と言つた。その後係員は坑木運搬の充填工に一方的に配役変えして当方のカツペの払内運搬をさせたので、職場分会長は係員に対し繰込後の作業変更であるから勝手にやるべきではないと申出た。

又申請人は係員と払長が短カツペ延長のことで話合つているところに行きあわせたところ、払長は申請人に「係員は短カツペを延長するように言つているが、どうしたものだろうか。」と聞いたので、申請人は「そこはうちの作業場ではないから短カツペを延長する必要はないだろう。」と意見を述べた。そばでこれを聞いていた係員は「それは保安上困ります。」と言つたので、申請人は係員に「そこは人の通る場所ではないから保安の問題は起らない。」と反論しただけである。

(3) 右主張事実3について

このような事態が他の番方にも起つたこと、一八日に企画係長が支部労働部長と話合を行ない、その際企画係長が採炭工がカツペ、シユウの払内運搬を拒否しないようにしてほしいと言つたこと、一九日に部内係長と職場代表者との話合を開かなかつたこと、一八日三番方(丙方)入坑後担当係員が払長に従来通り採炭工がカツペ、シユウの操作をするよう命じたが、払長が応じなかつたこと、一八日三番方の採炭作業が平常通り出来ず減産となつたことは認める。前記企画係長と支部労働部長との話合の結果が会社主張のようなものであること、一八日三番方入坑後申請人が採炭工全員に主張のように煽動し、充填工の作業を拒否させ、且つカツペ、シユウの払内運搬を全面的に拒否させたことは否認する。一八日二番方(乙方)以降会社がカツペ、シユウの払内運搬に充填工を繰込むことをやめたこと及び一八日三番方の減産の程度は知らない。

企画係長と支部労働部長との前記話合は(イ)一七日の話合に出席した職場代表者の賃金は日曜日に坑外で仕事をしてその賃金として支払うこと(ロ)今後の話合については企画係長から日曜日又は勤務時間外にやりたいという希望が出たが、結論が出ず、差当り今度の問題を早急解決するため明一九日(日曜日)に部内係長と職場代表者との話合を持つたらどうか、労働部長は職場代表者の都合を聞いてみようということになり、労働部長は職場分会長にこれを伝え、職場代表者の都合を聞いたが、地域分会等の用務のため都合のつかない者が多く、一九日には話合が開けなかつた。

尚一八日三番方入坑後申請人を含む採炭工全員が会社のいうような申合せをしたことはあるが、申請人がこれを煽動したものではない。

(4) 右主張事実4について

二〇日二番方(丙方)において減産したこと、同日採鉱担当副長と支部労働部長と交渉したこと、その結果同日午后四時一〇分頃より同九時頃まで部内係長と申請人を含む職場代表者との話合が開かれ、その席上一七日の場合と同様出席した職場代表者の賃金保障が問題となり、カツペ、シユウの払内運搬については見解が対立したまま結論が出ず、物別れとなつたことは認めるが、二〇日二番方において係員が主張のような指示をしたこと、同日の話合において職場代表者が会社、組合間の取決め及び作業慣行を無視したことは否認する。二〇日二番方の減産の程度は不知、その余は争う。

二〇日二番方の採炭作業は平常通りではなく、採炭工の全員ではないが、なかには腰をおろしていた者もあつた。尚同方では申請人は入坑していない。

(5) 右主張事実5について

二一日における副長と支部労働部長との話合より部内係長と職場代表者との話合までの経緯に関する会社の主張は概ねこれを認める。但し「正常な作業」「平常の作業」の意味がカツペ、シユウの採炭工による払内運般が正常又は平常の作業であるという趣旨ならばもとよりこれを争う。二五日三川鉱と支部との間でカツペ、シユウの取扱に関する話合が行なわれたことは認めるが、右話合が打切られたことは否認する。その余の事実は争う。

二五日の三川鉱三川支部の話合では(イ)カツペ、シユウは平常の場合は、カツチング箇所から一二〇尺以内を目安として準備しておく(ロ)但し天井の悪い場合は遠くなることもある(ハ)一二〇尺までは充填工に運搬してもらう旨の合意ができた。そこで申請人等も充分とは考えないが、これに従い、その後はカツペ、シユウの不足を来たさないよう要求を続けてきたが、その後その不足が段々と少くなり、従つて払内運搬も漸次なくなつてきた。従つて問題発生当時のような長距離のカツペ、シユウの払内運搬をやつたことはない。

(6) 右主張事実6について

会社主張事実は争う。

以上のように、申請人等採炭工がカツペ、シユウの払内運搬を拒否したのはこれが採炭工の業務ではなく、且つ、これを採炭工が行なうときは、それだけ採炭作業ができなくなつて賃金が減収となるからである。従つてそのために減産となつたことについては申請人等採炭工には何等の責任はない。また、申請人が殊更拒否させたり、紛糾させたりしたのでもなく、三方分会員の総意によるものである。

3、会社主張第三、二、(二)残留マイトの件について

七月一〇日一番方(丙方)就労の際切羽において不発のまま残留しているダイナマイトが発見されたこと、翌一一日一番方(丙方)繰込前申請人が係員詰所に行き、主席代行係員に残留マイトの問題について説明を求め、更に発破を実施した甲方の係員を直ぐ呼出してもらいたいと要望したが、右係員がこれを拒否したこと、その後繰込場で申請人が前記係員に対して部内係長を呼んで残留マイトの問題について説明させるように要求し、右係員がこれを肯じなかつたこと、丙方のほぼ全員が繰込に応ぜず繰込場に坐り込んだこと、部内係長から事情の説明があつたこと及びこの日同方においてほぼ全員が約七時間二〇分に亘つて坐り込み、坑内作業ができなかつたことは認める。残留マイトについて担当係員が石炭鉱山保安規則第一九一条所定の正規の措置をとつたこと、一一日一番方繰込前に担当係員が不発マイトが発見された切羽の採炭工等数名に対して事情を説明したこと、申請人が丙方鉱員を坐り込ませたこと及び部内係長の話の際申請人が残留マイト問題と直接関係のないことを多数持出して話合を紛糾させ、坐り込みの延引を計つたことは否認する。一一日一番方繰込の際主席代行の係員が説明を行ない且つ保安上必要な指示を与える予定になつていたこと及び減産量は不知、その他の事実は争う。主席代行の係員が申請人の要望を断わつた理由は上司に聞かねば判らないということであつた。また組合員が坐り込んでいる間に支部労働部員や部内係長が繰込場に来ており、労働部員から係長に職場と話してきめるべきだと要請したので、係長から事情の説明が為されたのである。組合員が坐り込んだのは係員の残留マイトに対する措置が悪かつたので、それがはつきりしないうちは保安上不安で仕事につけないからである。

4、会社主張第三、二、(三)葬式手伝の件について

二九日一番方(丙方)繰込前に申請人が丙方主席係員に対して松浦の妻の葬式の手伝に自分と採炭工中村の二人を行かせてもらいたいと申出たこと、申請人がまず中村を葬式の手伝に行かせ、その後申請人自身も葬式の手伝に行つたこと、葬式終了後申請人が丙方主席係員に対して中村と申請人の賃金を保障してくれるよう要求したが、拒否されたこと、本件に関して企画係長と支部労働部長が話合をしたこと、翌三〇日一番方(丙方)繰込前に申請人が平服のまま繰込場に来て、採炭工に繰込場の外に出てもらつたこと及び三〇日一番方において入坑遅延があり、採炭量が減少したことは認める。申請人が勝手に中村を葬式の手伝にやつたこと、申請人が両主席係員に主張のような放言をしたこと、企画係長と支部労働部長の話合の内容が会社主張の如くであること及び申請人が採炭工等を主張の如く煽動し、事態の紛糾を計つたことは否認する。減産の程度は知らない。

二九日繰込前申請人が葬式手伝に二人を行かせてもらうよう申出たのに対し、丙方主席係員及び常一番主席係員は一名なら良いが、二名は困ると言つて申請人の申出を認めなかつた。申請人の右申出は三川鉱における従来の慣行に反するものではない。そこで申請人は主席係員の了解を得て中村を葬式の手伝に行かせたのである。

次に支部労働部長は企画係長との話合の結果を支部長と申請人に伝えたが、申請人は不承知だつたので、支部長は労働部長に再度会社側と話合うよう指示した。しかし既に企画係長は退勤してしまつていたので、同日は再度の話合はできなかつた。

又三〇日一番方繰込前に申請人は繰込場に来て、連絡事項があるから話を聞いてくれと言つて採炭工に繰込場の外に出てもらい、前日の件を報告した。それに対し採炭工がめいめい意見を述べるなどしているうちに繰込時間が来て、丙方主席係員が繰込場に入るようにと言つてきたので間もなく繰込場に入つたが、申請人は直ぐ組合に行つてしまつた。他の分会員は繰込場に入つてからも前日の問題について他の方と違う取扱をしたことについて主席係員に抗議していたが、支部労働部長や、その後戻つて来た申請人等の説得によつて漸く入坑した。

5、会社主張第三、二、(四)パンツア・コンベアの件について

同日二番方(丙方)で主張の故障のため主張の時間採炭作業ができなかつたこと及び申請人が同日同方において係員詰所で川崎保安係員を二回殴打したことは認めるが、担当係員が故障復旧と同時に主張のような指示をしたこと、申請人が主張の如き実績賃金の保障を要求したこと及び申請人が採炭工全員を四五分間就労させなかつたことは否認する。減産の量は不知、その余の事実は争う。

前記故障が直つたので申請人と払長が仕事をしようと言うと、採炭工全員が申請人に対し「故障中の賃金の保障について交渉してくれなければ作業はしない。」と言うので、申請人は主席係員に保障を要求した。しかしその額は賃金協定の範囲内であつて実績賃金の保障を要求してはいない。これに対し主席係員は「仕事をしてくれれば賃金は後で何とかなるだろう。」と言うので、申請人は「仕事を先にさせて賃金は何とかなるでは問題だ。しかし自分も困るので執行部に連絡する。」と言い、支部労働部長に電話した。労働部長は「団体交渉中で手がはずせないので、後で執行部で責任を以て解決するから職場分会長たる申請人から説明して作業をさせるようにしてくれ。」と言つたので、申請人はこの旨を全員に伝えて作業についてもらつたのである。従つて作業に就かなかつたことについて申請人は何の責任もない。

次に申請人は同方昼の休憩時間に係員詰所に行つたが支部委員会での申請人の発言に関し主席係員と申請人との間で若干口論となつたところ、横から川崎係員(支部組合員)が口を出したので、申請人は今は分会長として責任者と話をしているのだから分会長を通じてくれと言つた。ところが川崎係員はなおも暴言を吐きつつ申請人の顔の前方に自分の顔をぬつと近づけたので、申請人は思わずこれを殴打したものである。その後支部執行部が、申請人も殴つたのは悪いが、川崎の態度も悪いからと言つて仲に入り、両者は和解した。以上の次第であるからこれを解雇の理由とするのは過酷である。

6、会社主張第三、二、(五)ポンプ当番配役補充の件について

同日同方でポンプ当番の機械工一名が病気のため早昇坑したこと及び担当係員が自らポンプ当番についたことは認めるが、申請人が係員の指示を無視し、ポンプ当番の配役を阻止したことを否認する。その余の事実は争う。

右のようにポンプ当番の機械工一名が早昇坑したので、担当係員は機械関係の代表者である機械工永野に対して誰か人員を補充として出してもらえないだろうかと申出た。そこで永野は機械工江口を補充に選んだところ、機械関係者から「今日の仕事はもう終るので、それは追加作業になるから、やることは問題だ。しかし条件をつけてくれればやつても良い。」という発言があつた。そこで永野、江口はこれを右係員に話したところ条件をつけることを拒否されたので、両名は申請人に相談に来た。そこで申請人も両名と同意見であり、更に主席係員に交渉したが、又も拒否されたので、申請人は支部の指示を仰いだところ支部も申請人等と同意見で「賃金の裏付けのない仕事はしないで良い。」と言つた。そこで申請人がこのことを主席係員に伝えると前記担当係員は自らポンプ当番に就いたのである。従つて申請人が江口をポンプ当番に就かせなかつたのではないし、また江口がポンプ当番に就かなかつたのも当然のことである。

7、会社主張第三、二、(六)終端申継の件について

一七日三番方(丙方)において採炭作業を放棄する事件があつたこと、翌一八日夕方部内係長、職場代表者、支部労働部員の間で前日の右事件について話合が行なわれ、真相が判つたこと、その際同日三番方(丙方)繰込の時に主席係員が繰込場で右事件につき説明するため十分位早く繰込場に集合させることとなつたこと、主席係員が繰込場で事情を説明したこと及び同日同方で入坑遅延があつたことは認める。一八日夕方の前記話合の際主席係員が繰込に支障を来たさない範囲で説明する旨の話合があつたこと及び申請人が主張のように繰込を拒否したことは否認する。減産量は知らない。その他の事実は争う。

一八日同方の繰込の際主席係員が前日の事件の事情説明を終ると申請人以外の採炭工から質問が続出し、殊に前方係員が各方申合せ事項(三方の作業量を平均化するため払の中央までカツチングしたらその方で終端六メートルの切取り作業をすること)を破つており且つこの点につき申継がなかつたため、当方が前方の作業をしなければならなかつた点について了解ができなかつたが、申請人が今日のところは入坑するよう説得したので、一同もやむなくこれに従い、繰込が終つた。ところが当日も亦前方が前日同様各方申合せ事項を破つており、しかもそれに係長が了解を与えていたことが明らかになつたので、また一同は騒然となつたが、申請人が「分会長に任せてさがつて下さい。」と頼んだので漸く入坑した。従つて当日の入坑については申請人は何の責任もないし、また入坑が遅れたことは係員の申合せ事項の不履行によるものであつて、遅延者の責を問うことはできない。

四、不当労働行為

会社が解雇理由として主張する申請人の行為は労働組合の正当な行為である。会社は申請人の右行為を生産阻害行為と言つているが、これ等は所謂職場斗争として組合の方針に基く正当な組合活動である。本件解雇の真の狙いは単に申請人の個々の行為を問題としているのではなく、炭鉱労働者の斗いの中で正しく発展してきた職場斗争に強い敵意を有し、その封殺そのものを意図したものであつて、申請人がこれ等の行為を含めて積極活溌に組合活動を行なつていたことが解雇の原因である。従つて本件解雇は労働組合法第七条第一号の不当労働行為として無効である。以下このことを明らかにする。

(一)  本件解雇当時における三池炭鉱労働組合とその職場組織

1、三池炭鉱労働組合

三池炭鉱労働組合(以下三池労組という)は会社の経営する三池鉱業所、三池港務所、三池製作所の鉱員をもつて組織する労働組合であつて、各鉱所毎に支部が置かれ、三川、宮浦、四山、本所、港務所、製作所の六支部がある。

しかして三池労組は日本炭鉱労働組合(炭労と略記する)に加盟する支部である。炭労傘下の各支部は企業別に連合会所謂企業連を組織し、これ等は炭労の補助機関として炭労の指導統制に従う。会社の場合には全国三井鉱山労働組合連合会(三鉱連と略称)がこれに該り、このほか九州に西日本三井炭鉱労働組合連合会(西鉱連と略記)、北海道に北海道三井炭鉱労働組合連合会がある。三池労組は三鉱連、西鉱連に加盟している。

2、三池労組の職場組織

三池労組各支部には職場毎に職場分会が設けられており、職場分会は三池労組規約第五九条により中央及び支部の決定に基き業務執行に当るほか、その分会限りに関する事項については組合の統括を乱さない範囲において自主的にこれを行なう。職場分会には決議機関として職場会議があり、職場会議は分会員全員で構成され、職場分会長は職場分会を統括し、職場会議の議長となり、その職場限りに関する事項の執行の任に当る。

(二)  職場斗争

1、職場斗争の意義

職場斗争は近来の組合運動の実践の中で発展した斗争方法であるが、労働組合の職場組織が職場における労働条件の維持向上及び組合作りのために行なう斗争である。

労働組合の主たる任務は労働条件の維持向上を図ることにある。従つて職場斗争がその下部組織の斗いである限り労働条件の維持向上を目的とすることには変りがない。又職場斗争は労働者の一人一人の団結上の自覚を促し、これを基礎に労働組合を斗う組織に前進せしめようとするものである。

2、炭鉱労働の特殊性

炭鉱における職場斗争は他産業の場合よりも炭鉱労働の特殊性により更に大きな意義を持つている。その特殊性の一は作業条件である。常に生命の危険に曝され、また刻々と或は場所毎に変化する自然条件の下での労働であるため労働条件は絶えず変化せざるを得ない。特殊性の二は労務管理の前近代性である。労働者を人間とも思わない戦前の炭鉱における労務管理の伝統は今日も残つていて、職制はさきにあげた自然条件の多様性をその権限を行使するにあたつて乱用する。また労働条件の一部である社宅等の福利厚生施設の大きなことが、これを会社の恩恵のように考えさせ、労働者の従属性を強くした。

3、炭鉱における職場斗争

上述の如く炭鉱労働の特殊性を見る限り炭鉱においては特に職場斗争が必然的なものであり、必要性があることが理解される。

(1) 労働条件の維持向上

前記のように、炭鉱における、刻々と、また場所毎に変る作業条件の下では、たとえ労働条件の基準が定められていても、その基準の具体化には他産業に見られない複雑な職場毎のその時々の諸要因があるし、或いは一定の賃金のために予定された労働量を著しく越える労働強化を伴う場合もある。更には新たな条件の発生によつて基準そのものが存在するとは言えない場合すら発生する。

こうした作業条件のうえに、労務管理の前近代性という労使関係の特殊性が加わり、職制が一方的に労働条件を定める結果となる。従つてこのような条件の下で労働条件を労使対等の立場で決めるという近代的労使関係にとつて当然のことをさせるためには日々職場で労働者が斗う以外にはない。

(2) 保安の確保

保安は広義の労働条件の一つであるが、坑内での作業は常に生命の危険に曝されながら行なわれているため保安法規の確実な遵守や、災害対策の実施を確保しなければならない。ところが利潤を最大限に引上げようとする会社側の要求は必然的に保安無視ないし軽視の傾向を生まざるを得ず、これに対して保安を守らせなければならないのはその犠牲となる労働者自身である。従つて労働者は職場が結束して斗わない限り保安は守られず、災害を防止することはできない。

(3) 職場の民主化――職制支配の排除

前述の労働条件の維持改善、保安の確保のために職場斗争が必要であるときこれを阻止するものは職場末端の職制を通じての炭坑経営の前近代的な労務管理である。その前近代的な職制支配を排除しない限り炭鉱労働者は生命の安全の確保も労働条件の対等決定もできないし、そのための自主的な労働組合さえできないのである。

(4) 組織作り

労働者は団結のみが力であり、労働者の一人一人が団結の意義を自覚して始めて強くて自主的な組合となることができるばかりでなく、上述の如く労働条件の維持、保安の確保、職制支配の排除という極めて大きな課題を担う炭鉱における職場斗争には特に労働者の固い団結が必要とされる。しかも、たとえ、それが自分の労働条件と関係のない唯一人の組合員の労働条件に関する問題であつても、全員が強い連帯性を持つてそのために斗わなければならない。一人一人の労働条件が着実に守り抜かれていない限り全員の労働条件も何時破られるか判らないのである。

(5) 職場斗争の主体

職場斗争の主体となるのはおおむね労働組合の職場組織である。憲法第二八条の保障する労働者の団結は労働組合法の規定に従つた労働組合だけではなく、一般に労働者の団結をいうものであるから、職場組織が労働組合の一部分であつても憲法上保障される団結であることは勿論である。まして三池労組の職場分会は前述したとおり組合規約上も自主的な団体行動が広く認められているものである。そうして申請人はこの職場分会長として殊に分会の代表者として行動したものである。

(6) 職場斗争の手段

職場分会は原則として労働組合に保障されているのと同様な団結権、団体行動権が保障されているものといわなければならない。更に職場組織に団体行動権の保障があるか否かは一応措くとしても、本件の場合には入坑遅延(作業停止を含む)は何れも会社側の協定、慣行違反、職場交渉の拒否等の不当行為、殊にそれが計画的であつたことに起因し、その協定慣行に従うこと、職場交渉に応ずることを求めて職場分会として抗議し交渉したためであるから会社が自らの非を措いて組合の行動を非難し、これに不利益を与えることは許されないので、本件申請人の行為は労組法第七条第一号の正当な行為というべきである。

(三)  炭労、三池労組の職場斗争

三池労組は昭和二七年に行なわれた炭労の六三日に及ぶ賃上げ無期限ストの教訓から学び、昭和二八年に行なわれた一一三日に及ぶ企業整備反対斗争においては一貫して大衆斗争をもつて斗い、勝利を収めた。この斗いの中から炭労は大衆斗争、職場斗争の重要性を確認し、その後の斗いの中で更に職場斗争を重視し、その方針を今日まで発展させてきた。

また三池労組も一一三日の斗いを出発点として大衆斗争、なかでも職場斗争を重視し、その斗いを発展させた。その一例がいわゆる長計協定斗争である。すなわち昭和三〇年六月会社は三鉱連に対し合理化を目的とする一〇ケ年にわたる長期経営計画を提示してきたが、三鉱連はこれに対し完全雇用、保安優先等を要求内容とする経営方針変革斗争をもつて対決した。三池労組はこの斗いを組合員の日常の諸要求を結合して斗い、職場斗争を推進した。こうした斗いのなかで同年一一月長計協定が結ばれた。

以上の職場斗争のなかで三池労組の各支部、各職場間に労働条件に不均等を生じた。昭和三一年二月三池労組は三鉱連の指示のもとに各支部、各職場毎に他の進んだ支部、職場の労働条件に到達するよう斗いを指令し、支部、職場の各要求事項について支部、職場の各斗争委員長に三権(交渉権、スト権、妥決権)を委譲した。この到達斗争は多くの職場協定を生み出し、その後の職場斗争の基盤となつた。

右のように職場斗争が推進され、着々とその成果が実を結び、多くの職場協定、慣行が作られて職場の諸要求がかち取られ、協議条項によつて職制の一方的支配は破られ、災害は減少し、明るい職場となつた。

しかし、このことは同時に資本の利潤の大きな減少を結果するから会社は到達斗争後あらゆる手段をもつて職場斗争を制圧しようとした。殊に会社は昭和三三年末第一次合理化案を提示し、合理化計画の中心が職場斗争の制圧にあることを公然と示した。そして昭和三四年四月六日会社三鉱連間に第一次合理化協定いわゆる四、六協定が締結された直後生産阻害を口実として、職場斗争を理由に申請人を懲戒解雇した。

(四)  本件解雇理由と職場斗争

1、申請人の組合における地位

三川鉱本層下丙方の職場には三川支部本層下丙方職場分会があつた。

申請人は昭和一〇年五月被申請会社三池鉱業所四山鉱に入社し、その後三川鉱の採炭工となつたが、昭和二五年九月頃から同二九年五月頃まで三川支部労働部員、同二九年五月頃から同三一年七月頃まで西鉱連の副執行委員長の各役職につき、同三一年一〇月頃から三川鉱上層西部内の、同三二年二月頃から同鉱本層下部内の採炭工となり、三川鉱採炭会が同三二年五月に作られたさい初代の採炭会々長に選出され、同三二年六月には三川支部本層下丙方職場分会長となり、同三五年三月までに連続して職場分会長を勤めた。

2、カツペ、シユウの件

(1) 目的

カツペ採炭にはいわゆる賃金協定上の標準作業量はなく、三川鉱本層下の切羽は試験切羽としてその標準作業量の決定は後日に譲られ、一定の賃金(一〇一八円四〇銭)に対する一応の目安の作業量が試験的に決められていたにすぎない。そこで従来の作業方式ではカツペ、シユウの払内運搬は採炭工の作業ではなかつたが、昭和三二年五月頃はカツペ、シユウの不足のため、採炭工としては賃金形態が請負給であることの宿命から、やむなくカツペ、シユウの払内運搬をせざるを得ない状態に追い込まれた。しかし会社は契約外(義務外)のカツペ、シユウの払内運搬について新たにその雑工賃を試験的な作業量の中に織込み、その支払をすることもなく、却つてカツペ、シユウの払内運搬を採炭工の作業の一部に組み入れ、契約外(義務外)の労働をさせようとした。

そこで申請人等採炭工はカツペ、シユウの払内運搬が契約外(義務外)の労働であるため、これを是正させる目的で、本来の作業方式どおりカツペ、シユウを払内のカツチング箇所に準備し、カツペ、シユウが不足しないよう職場交渉の申入れをした。

したがつて右申入れは会社側が契約外(義務外)のカツペ、シユウの払内運搬を採炭工の作業内容に組み入れて、将来の標準作業量決定のための既成事実を作つて、労働密度の増加(労働強化)を図ろうとすることに対する抵抗、是正を目的とし、労働条件の維持を目的とするものである。

(2) 手段

申請人等採炭工は昭和三二年五月一二日三川鉱採炭会を結成し、申請人はその会長に就任した。右採炭会の採炭総会及びその代表者会議(三方全部)で前記契約外(義務外)のカツペ、シユウの払内運搬を拒否する職場斗争を決定し、組合の承認を得たうえで前記職場交渉の申入れをした。しかして職場分会員は右職場交渉のため多少の入坑遅延という手段による職場スト、シユウの数だけカツチングを行なう怠業等をもつて対抗し、申請人は丙方の代表者(交渉委員)として右職場斗争に参加したものである。

3、残留マイトの件

(1) 目的

残留マイトによる災害が当時頻繁に発生し、職場分会員はこれに対し極度の不安と関心があつたところ、担当係員の残留マイトについての措置が適切を欠いだ事態が発生したばかりでなく、残留マイトの申継もなされておらず、職制の保安対策の問題が等閑視され、しかも係長もこれに対しあいまいな態度をとつたので、分会員全員が保安上不安で仕事につけないということになつた。そこで申請人は職場分会長の立場で分会員の意思を代表し、今後残留マイトによる災害を未然に防止する原因を追求するため右申継のなされていないこと等の事実を指摘し、職制の反省を促し、保安の確保のための抗議を目的とした。

(2) 手段

前記目的のための抗議行動(抗議スト)として繰込拒否の手段がとられたけれども、これは職場分会員全員の自然発生的な抗議行動であり、職制の誠意のないあいまいな態度が却つて時間遷延の原因ともなつたもので、申請人は組合執行部と連携を取りながら分会員の意思を代表して職場交渉に当つた。

4、葬式手伝の件

(1) 目的

昭和三三年七月二九日分会員松浦秀夫の妻の葬式手伝に申請人と採炭工中村の二人で行つたので、その賃金保障を要求した。これは従来他の方で家族死亡の場合の葬式手伝に二人を認め、その賃金を保障している慣行があつたからである。そこで申請人の右要求は職場慣行の遵守を求めるものである。また翌三〇日分会員の取つた行動は前日の葬式手伝の件について主席係員が他の方と違う取扱をしたことに抗議することを目的とした。

(2) 手段

丙方分会員は前記目的のために自然発生的に抗議行動として入坑遅延をしたもので、申請人は全くこれに関係がなく、却つて申請人等の説得で漸く入坑したものである。

5、パンツア・コンベアの件

(1) 目的

パンツア・コンベアのケーブルが故障し採炭作業ができなかつたので採炭工全員が申請人に対し故障中の賃金の保障について交渉をしてくれと言うので、申請人は分会長の立場上主席係員と職場交渉をした。

賃金協定上の保障給の規定の運用取扱については、会社の責に帰すべき事由で作業ができない場合(イ)会社が努力をしても効果がなく、なお作業ができない場合には右規定どおり八〇パーセントから一〇〇パーセントの範囲内で保障を行なう。しかし(ロ)会社が努力をすれば解決できたにもかかわらず努力しなかつた場合には賃金協定の一〇〇パーセント(一人当り一、〇一八円四〇銭)を保障する取扱がなされた。

そこで申請人は右(ロ)の場合の賃金協定の範囲内の一〇〇パーセント保障給を要求したのであつて、実績賃金(当時の実績賃金は一五〇パーセントで一人当り一、五五一円)の保障を要求したものではない。

従つて申請人の右職場交渉の要求は賃金協定の従前の運用取扱の遵守を求めたもので、労働条件の維持を目的とするものである。

(2) 手段

申請人は右職場交渉にさいしては電話で支部労働部長の指示を求めているばかりでなく、従前から職場の苦情が起つた場合には直ちにその都度苦情処理を求める意思表示をするよう組合の指示を受けていたので、右組合の指示どおりに意思表示をした。しかして他の分会員は申請人が職場交渉をしている間事実上作業につかなかつたに過ぎず、申請人の交渉に呼応して苦情処理を求める意思表示を自発的且つ集団的にしたものである。

6、ポンプ当番配役補充の件

(1) 目的

固定給の職種(B作業)の日役(雑作業)にも一定の賃金に対応する八時間の作業量(科程)があるのに、会社は八時間内であれば右作業量以上に次々に作業をさせ、労働密度を増大させようとしてきた。そこで昭和三一年二月の到達斗争のとき固定給の職種にも作業量の目安があるということで、これを明確にするため「追加作業変更に関する職場協定」を締結し、追加作業は原則として行なわず、追加作業を行なうときは作業員と話合うとともに分会長に連絡諒解を求めることとした。

分会員の機械工江口義夫がポンプ当番配役補充のため追加作業を命ぜられたので、機械関係の代表者永野定一と機械工江口とが、分会長たる申請人に対し、ポンプ当番に配役されるのは追加作業になるので、右協定の趣旨に従い条件歩増をつけさせるよう交渉してもらいたいと相談に来た。そこで申請人は分会長の立場上主席係員との間で分会員江口の苦情処理に関する職場交渉をした。

(2) 手段

申請人は職場交渉で拒絶されたので、支部執行部の指示を仰いだところ、支部でも前記協定により話合がつかなければ追加作業はしないでよいとの指示を受けた。従つて江口も右指示に従つてポンプ当番の作業に就かなかつた。

7、終端申継の件

(1) 目的

カツペ払ではカツチングが払のほぼ中央まで進んだ場合に終端発破でこれを取ることが三方の申合せ事項であり、これが払作業規格に取り入れられていた。しかるに昭和三四年二月一七日三番方(丙方)において、一番方又は前方で右申合せ事項を破つて終端に残炭を残し、且つ右残炭があることの申継を怠つていた。そこで、丙方の佐藤副分会長は、これは職制の責任になるから残炭処理のための充填工二人の賃金は会社の責任において別枠で出してもらいたいと職場交渉をしたが、結局その要求は容れられなかつた。

しかして翌一八日三番方の繰込のさい主席係員が前日の出来事について説明したが、その説明では責任の所在が不明確で、分会員はこれに納得することができなかつたため質問が続出した。しかし申請人は今日のところは一応入坑するように説得したので漸く分会員も繰込に応じた。

ところが当日の切羽状況の説明に入ると、またも前方が前日同様申合せ事項を破つて終端の切取りを終了しておらず、しかもそれに係長が了解を与えていることが判明したので、職制の責任を明確にして、これに抗議するために分会員全員が抗議の意思表示をした。

(2) 手段

二月一七日には終端の残炭を残し、しかもその申継がないことは職制の責任である。のみならず翌一八日にも亦終端の切取りをしていないという引続き再度に亘る職制の無責任な態度に抗議するため分会員全員が取つた入坑遅延はむしろ当然の抗議行動で、その手段においても非難に価しない。しかも右入坑遅延は当日の出炭函数に影響を与えない程度のものである。

五、仮処分の必要性

申請人は会社を相手に解雇無効確認を求める本案訴訟を提起しようとしている。しかしその判決確定を待つていては給料のみによつて生活している申請人は将来回復することのできない損害を受ける虞がある。よつて右本案確定に至るまで申請の趣旨記載のとおりの仮処分を申請する。

第三、被申請人の答弁

一、申請人主張の第二、一の事実中会社が肩書地に本店を有し、石炭の採掘販売を業とする株式会社であること、申請人が本件解雇通告時まで会社経営の三池鉱業所の従業員であつたことは認めるが、申請人が三池炭鉱労働組合の組合員であることは知らない。申請人主張の第二、二の事実は認める。

二、会社が申請人を解雇したのは次の理由によるものである。即ち申請人は三池鉱業所三川鉱本層下部内に採炭工として勤務中昭和三二年五月以降同三四年二月までの間に左記の如き行為をした。これらの行為は何れも業務阻害行為として労働協約第一二条第一項第一号(3)、就業規則附属書第三号鉱員賞罰規程第八条第三号(ハ)に定める解雇事由に該当する。

(一)  カツペ、シユウの件

1、三川鉱本層下部内では三川鉱と三池炭鉱労働組合三川支部(以下三川支部又は単に支部と略記する)との間で、カツペは払内又はゲートに準備することに取決められており、これらの場所に準備されたカツペを採炭工がカツチング箇所に運んで作業するのが払における作業のあり方であつた。然るに申請人は昭和三二年五月一四日三番方(丙方)繰込前突然丙方主席係員に「カツペは常時カツチング箇所にあるように準備してもらいたい。カツチング箇所にないカツペの払内運搬は採炭工では行なわない。」旨申入れてきたが、主席係員は右申入れは作業条件の変更であるとしてこれを拒否した。

ところで部内係長は、同月一五日、申請人の右申入れ事項に関し、当分の紛争を避けるため、止むを得ず臨時の措置として充填工を配役して次方のカツチング箇所近くにカツペを配列させることとし、その旨を係員に指示した。そこで同日三番方(丙方)において、丙方主席係員が、右係長の指示に従い、丙方職場分会長に対して本日より払内におけるカツペ運搬に充填工一名を配役するに至つた事情を説明したところ、充填工である分会長は「そのようなことは前例がない。」との理由でこれを拒否した。ところがその場にいた申請人は、繰込時刻になつたため繰込を指示した主席係員の制止を排して、勝手に採炭工全員を繰込場から外に連れ出して打合わせを行ない、その後主席係員に対し「二、三日中に本件に関する職場代表者と係長との話合を持つことを約束してもらいたい。そうでなければ入坑しない。」旨申入れてきた。主席係員は部内係長の指示を俟つて勤務時間外に行なうという条件を附して話合に応ずることを諒承した。結局当方において申請人は前記行為により採炭工二七名積口作業の運搬工五名の入坑を二五分遅延させた。

2、(1) 同月一七日午后四時五〇分頃より同六時五分頃に至る間前々日の約束に従つて部内係長と申請人を含む職場代表者との話合が開かれたが、申請人等は冒頭から本題であるカツペ取扱の問題には触れようともせず、話合に出席している各方代表者の出席時間中の賃金保障を要求したので、係長はこの話合については予め勤務時間外に行なうこと即ち出席者の賃金は保障しないことに了解が成立しているし、また三川鉱の慣行からも認められないと拒否し、カツペの取扱に関する話合にはいるべき旨を主張した。ところが申請人は依然として賃金保障の要求を繰返し「これが容れられない以上は今後係長との苦情処理の話合は一切しない。又カツペ払において不測の事態が発生しても自分等の責任ではない。」旨述べて他の職場代表者を使嗾し、自ら退去した。

(2) 申請人は同日三番方(丙方)入坑後休憩所到着と同時に採炭工全員を集めた後担当係員に「今日は微妙なことを話すので係員は遠慮してもらいたい。」と言つて係員を遠ざけて何事か話合つた後担当係員に対し「城戸係長時代にはカツペ及びシユウはカツチング箇所にあるようになつていた。今はカツペはあるがシユウはないので準備してもらいたい。」と要求してきた。この要求に対し右係員が「従来の作業実態からみて城戸係長時代にそのような取決めがあつたとは考えられない。」旨述べて右申入れを断つたところ、申請人は今度は採炭工によるシユウの払内運搬を拒否した。そこで係員はやむなく次方のためのカツペの払内運搬に繰込んでいた充填工に当方のシユウの払内運搬をさせた。ところが申請人は職場分会長に「これは繰込後の作業変更であるからやらせるべきではない。」等と前記要求と全く相反するような抗議を行なつて充填工によるシユウの払内運搬を中止させた。又同方作業中担当係員がカツペ先が広くなつている箇所を発見したので、払長に短カツペを延長するよう指示したところ、申請人は自ら係員の所に来て「保安とは危険な場所に行かないのが一番良い方法である。」と難癖をつけて係員の命じた保安作業を拒否した。

結局同日この方において申請人が採炭工及び充填工によるシユウの払内運搬を共に拒否させたので、その後は採炭作業に支障をきたし、約九五屯(約七五パーセント)の減産となつた。

3、(1) 同月一八日この事態が他の番方にも波及したのを憂慮した三川鉱企画係長は三川支部労働部長に採炭工の業務拒否をやめさせるよう注意するとともに同労働部長と話合つた結果(イ)前記同月一七日の話合に出席した代表者の賃金保障の問題は企画係長と支部労働部長との間で責任をもつて検討すること(ロ)今後の苦情処理は日曜又は時間外に行なうこと(ハ)明一九日(日曜日)に部内係長と職場代表者との話合を開いてこの業務拒否事件の結末をつけること、という了解が成立した。そこで即日支部労働部長はこの旨を職場分会長に伝え、同分会長は右趣旨に従つて職場代表者を説得したが、申請人等の反対にあい、結局一九日の話合はこれを開くことができないこととなつた。よつて会社はカツペ及びシユウの払内運搬は本来採炭工の仕事であり、前記のような業務拒否が続く限り暫定措置として充填工をカツペ及びシユウの払内運搬に配役する意味はないので同月一八日二番方(乙方)以降カツペ及びシユウの払内運搬に充填工を繰込むことを止め、従来通りの繰込に復元することとした。

(2) ところで申請人は同月一八日三番方(丙方)入坑後休憩所で採炭工全員に対し(イ)係員の作業指示に対しては黙否戦術をとること(ロ)この斗争は労働協約や就業規則に違反するものではないから最后まで斗い抜くべきこと、を煽動した。その後担当係員が、払長に、従来通り採炭工がカツペ及びシユウの操作をするよう命じたが、黙否戦術に出てこれに従わないので、やむなく充填工にその作業を行なわせようとしたところ、申請人は係員を難詰して右充填工に作業を拒否させた。結局この方においては申請人がカツペ及びシユウの払内運搬を全面的に拒否させたので採炭作業は麻痺し、約九五屯(約九三パーセント)の減産となつた。

4、(1) 同月二〇日二番方(丙方)においては丙方主席係員及び担当係員がカツペ及びシユウは従来通り採炭工が払内運搬をして作業するよう指示したが、採炭工は黙否戦術に出て、大部分の者はコンベアに腰をおろして仕事をしなかつたので採炭作業は殆んど麻痺状態となり、約一二六屯(約九九パーセント)の減産となつた。

(2) 同日事態を憂慮した採炭担当の三川鉱副長は支部労働部長を招致して厳重抗議するとともに、早急に事態収拾を講ずるよう要望した結果同日午后四時一〇分より同九時までの間部内係長と申請人等との話合が開かれたが、前記一七日の場合と同様話合に出席した代表者の賃金取扱が問題となり、又カツペ及びシユウの払内運搬に関する問題について係長が「カツペ及びシユウの払内運搬は採炭工で行なうのが当然であり、このことは会社組合間の取決めや従来の作業の実際のあり方からしても明らかである。」旨説明したのに対し申請人等は右取決めや作業慣行を無視して当初よりの要求を固執したので結論を得ることができず、物別れとなつた。

5、同月二一日事務担当の三川鉱副長と支部労働部長との間で事態収拾策につき話合つた結果(イ)採炭工の業務拒否を止めて速やかに正常な作業に復帰すること(ロ)職場代表者との話合に際しては出席者の賃金取扱の件及び採炭工の今次業務拒否に伴う減収補償の件は持出さないこと(ハ)係長と職場代表者との話合が円満につかない場合は上部機関に吸上げて協議することの三点を決定し、このような前提のもとで係長と職場代表者との話合を行なつて本件紛争の解決を図ることとなつた。

かくて同日午前一一時以降採炭工によるカツペ及びシユウの払内運搬拒否は中止され、平常の作業状態に復帰した。次いで前記話合の結果に基き同日午后四時から同六時までの間部内係長と申請人等職場代表者との間で話合が行なわれた。しかしこの話合においてもカツペ及びシユウの取扱に関し申請人等が前日同様その要求を固執して譲らなかつたので別物れとなり、解決を見るに至らなかつた。

かくて過去三回の部内係長、職場代表者間の話合においても何等の結論を得ることができなかつたので同月二五日三川鉱と支部との間に苦情処理の話合が持たれた際前記二一日の副長、支部労働部長の取決めに基いてカツペ及びシユウの取扱に関する問題も話合つた。右話合において会社側は「カツペ及びシユウの払内運搬は採炭工の作業内容をなすものであるから当然採炭工が実施すべきものである。若しその運搬距離を短縮するとすれば標準作業量に関する問題として処理すべきである。」旨主張したのに対し、支部側からは明確な反論を為し得ないまま話合は打切られた。その後は本問題についての話合は行なわれていないが、採炭工によるカツペ及びシユウの払内運搬拒否は前述の如く五月二一日一番方で中止され、爾後現在に至るまで従来通りの作業に復している。

6、以上の如く申請人は三川鉱と三川支部との取決め及び従来の作業のあり方を無視してカツペ及びシユウは常時カツチング箇所にあるよう準備せよとの要求を行ない、擅に採炭工にカツペ及びシユウの払内運搬を拒否せしめたほか、前記の如く種々煽動的な言動を以て殊更事態を紛糾させる挙に出た。このため事態は丙方のみにとどまらず甲方乙方にも波及し、五月一七日三番方(丙方)以降同月二一日一番方(乙方)までの間採炭作業は著しく阻害され、累計約七五〇屯の減産となつたのである。

(二)  残留マイトの件

昭和三三年七月一〇日一番方(丙方)就労の際切羽において不発のまま残留しているダイナマイトが発見されたが、これについて担当係員は石炭鉱山保安規則第一九一条に定められた正規の措置をとつた。

翌一一日一番方(丙方)の繰込前右係員は不発マイトが発見された前記切羽の採炭工等数名に対して当時までに判明していた範囲で事情を説明したが、尚丙方全員に対しては繰込の際主席代行係員から右同様の説明を行ない且つ保安上必要な指示を与える予定になつていたところ、申請人は、係員詰所に来て、主席代行係員に対し前記問題の説明を求め、更に発破を実施した甲方の係員を即時呼んでもらいたい旨強く要求した。これに対し右係員は甲方の係員を呼ぶことは権限外のことであり、また繰込時刻にも間に合わないのでこれを拒否した。次いで申請人は繰込のため繰込場に赴いた右係員に追尾し来り、早朝で未だ自宅で就寝中の部内係長を是非とも呼び出して説明させよと要求してやまないので、右係員は「本件の如きは、係長から繰込の際全員に説明するような問題ではないから、自分が説明する。今から部内係長を呼び出しても遠距離ではあるし、繰込に間に合わない。どうしても係長の説明が聞きたいということであれば昇坑後にして貰いたい。」等と種々説得に努め、再三繰込に応ずるよう指示した。然るに申請人は飽くまでも「係長から直接説明を聞きたい。係長の説明を聞くまでは皆を入坑させる訳にはゆかない。」と言い張つて遂に丙方全員(但し一時間五五分遅れて入坑した倉庫番一名を除く)の繰込を拒否して繰込場に坐り込ませた。その後支部労働部員等の懇請もあり、部内係長から申請人等職場代表者に対して事情を説明したが、その際申請人は本件と直接関係のないことを多数持出して話合を紛糾させ、右坐り込みの延引を計つた。結局当方において前記丙方全員を七時間二〇分に亘つて坐り込ませ、その坑内作業を不能ならしめた。当方における減産量は約一五〇屯(一〇〇パーセント)である。

(三)  葬式手伝の件

昭和三三年七月二九日一番方(丙方)繰込前申請人から丙方主席係員に対して「昨日同僚松浦の妻が亡くなつたので、自分と採炭工中村を一方分の賃金を保障して朝から葬式の手伝に行かせてもらいたい。」旨の申出があつたが、右主席係員及び常一番主席係員は三川鉱ではそのようなことは取扱に反し、又慣行もないことを説明し、その申出を許可しなかつた。然るに申請人は勝手に採炭工中村を右葬式の手伝にやり、その後申請人自身もその手伝に出かけた。そして葬式終了後申請人は再び丙方主席係員及び常一番主席係員に葬式手伝に行つた二人の賃金を保障してくれるよう要求した。ところが両主席係員が再度その要求を拒否するや、憤然として「あんた達は当部内にはいらない。出て行つてもらおう。自分は腹を立てた。徹底的にやる。これはおどかしではないぞ。自分は明日は休むが、明日の繰込がどうなつても知らない。あとはあんた達で始末をつけろ。」等と放言した。

一方本件に関し支部労働部長が企画係長の所に来て「正式な話として持出せる話ではないが、葬式の手伝に行つた二名の賃金について何とか考えてもらえまいか。」という趣旨の懇請があり、両者で話合つた結果、本来ならば両名共欠勤にすべきであるが、中村は申請人の指示に従つたので悪意がなかつたものと認め、中村についてのみ後日賃金ということではなく何かの名目で処理することに話合が成立し、申請人に対しては支部労働部長からこの旨を伝えた。

翌三〇日一番方(丙方)繰込前申請人は平服のまま繰込場に来て、勝手に採炭工全員を繰込場の外に連れ出し、前日の件につき主席係員を詰問すべきであるなどと煽動した。そのうち繰込時刻になつたので丙方主席係員が再三採炭工に繰込場へ入るよう指示したが、申請人はこれを黙殺して依然煽動を続けていた。その後漸く申請人は採炭工を繰込場へ入れたが、改めて丙方全員を集め、既に企画係長と支部労働部長の間で前記の如く話合が成立していることを承知していたにも拘らず、そのことには一言も触れず「この問題の責任は主席係員にあるから主席係員に事態を収拾してもらえ。」等と煽動し、更に副長(採炭担当)の抗議に基き支部教宣部長が組合員等の説得に当つたところ、申請人は「あんた達はそれで良いかもしれないが、自分の立場はどうなるのか。納得できない。」と反論し、終始事態の紛糾を計つて繰込業務を阻害した。その後支部労働部長の説得によつて漸く入坑したが、この方において丙方全員七九名につき二時間四〇分の入坑遅延を生じ、そのため約七〇屯(約四八パーセント)の減産となつた。

(四)  パンツア・コンベアの件

1、昭和三三年九月五日二番方(丙方)において、パンツア・コンベアのケーブルが故障したため、午后三時三〇分より同四時四五分まで採炭作業ができなかつた。故障復旧と同時に担当係員が全員に作業を開始するよう指示したところ、申請人は丙方主席係員に対し故障に因る当日の賃金の減収につき賃金協定に定められた以上の実績賃金の保障を要求した。同係員は、このような場合の保障については賃金協定に明確に定められているのであるから、作業は作業でやつて、話合は別途にやるべき旨を説得するとともに、再三に亘つて全員作業に就くよう指示したが、申請人は、この問題を解決してくれなければ仕事はさせられないと称し、支部の説得により作業を開始するまで四五分間に亘つて採炭工全員二三名を就労せしめなかつたため、当方において約五〇屯(約三三パーセント)の減産を生じた。

2、同日同方において、丙方主席係員が坑内の係員詰所で前記作業放棄事件の経過を日報に整理しているところへ申請人が来て「そんなことを一々書かなくてもよいではないか。」等と主席係員に喰つてかかり、更に話題が転じて保安係員の作成した日報問題につき論争となり、たまたまその問題につき発言した川崎保安係員に対し種々暴言を浴びせたうえ、抵抗もしない同係員を他の係員数人の面前で二回に亘つて殴打した。

(五)  ポンプ当番配役補充の件

昭和三四年二月五日二番方(丙方)のポンプ当番の機械工一名が病気のため休憩時間中に昇坑したので、担当係員はその補充として他の作業に繰込まれていた機械工江口にポンプ当番をするよう命じた。ところが申請人は同係員に対して「江口は既に当日の科程を終了してポンプ当番につくのであるから追加作業となる。だから賃金のプラス・アルフアを支給してもらいたい。」旨要求してきた。これに対し担当係員及び丙方の主席係員は「江口の賃金は固定給と変らない現実からみても到底そのようなものは出せない。」旨を説明するとともに、江口に対しポンプ当番は緊急且つ重大な保安作業であるから直ちにその仕事に就くよう指示したが、申請人は「プラス・アルフアの賃金を支給しない以上江口をポンプ当番に就かせる訳にはゆかない。」と主張して係員の前記指示を無視し、遂に保安作業であるポンプ当番の配役を阻止した。結局この方においては爾後のポンプ当番は右係員が自ら実施せざるを得なかつた。

(六)  終端申継の件

昭和三四年二月一七日三番方(丙方)において採炭作業を放棄する事件があつた。しかして翌一八日夕刻部内係長は職場代表者及び支部労働部員と前日の作業放棄事件について話合をした結果両者共前日紛糾の原因となつた終端申継の真相については了解したが、その際直接丙方主席係員から丙方全員に対し三番方繰込前に繰込に支障を来たさない範囲で事情を説明するため、丙方全員を通常より一〇分早く繰込場に集合させることとなつた。よつて同日同方繰込前丙方主席係員は右約束に従つて説明を行なつたが、繰込時刻になつたので説明終了とともに繰込をしようとしたところ、申請人は部内係長と職場代表者及び支部労働部員との前記約束を無視して、まだ納得できない等と言つて再三係員の説明を求め、遂には納得できるまでは入坑する訳にはいかない等と言つて繰込を拒否し、主席係員の数度の指示をも無視した。その結果採炭工二三名については五〇分、充填工二〇名機械工一四名積口作業の運搬工六名については二〇分の入坑遅延を生じ、この方において約一七屯(約一二パーセント)の減産となつた。

三、申請人主張第二、四(不当労働行為)の冒頭の事実及び(一)乃至(三)の事実中(一)、1(三池炭鉱労働組合)の点、(二)、2(炭鉱労働の特殊性)中坑内の自然条件が変化し易いとの点、(二)、3(炭鉱における職場斗争)中坑内における保安確保が必要なこと、(三)(炭労、三池労組の職場斗争)中三池労組がその記載のようなスト及び職場斗争を行なつたことは認めるが、職場斗争に関する三鉱連及び三池労組の方針、指令は知らない。申請人の解雇理由該当の行為が、申請人のいわゆる「職場斗争」であつて、組合の方針に基く正当な組合活動であり、本件解雇がいわゆる「職場斗争」の封殺を意図してなされたものであること、従つて本件解雇が労組法第七条第一号該当の不当労働行為であることは否認する。その余の事実は総て争う。

申請人主張第二、四、(四)(本件解雇理由と職場斗争)の事実中被申請人従来の主張と牴触する部分はすべて争う。

仮に申請人の各行為がいわゆる「職場斗争」としてなされたものとしても、それ等は何れも組合活動の正当な範囲を著しく逸脱する不当な行為であつて、労働協約、就業規則に照らし懲戒処分の対象とされるのは当然である。

四、申請人主張第二、五(仮処分の必要性)の事実は否認する。

第四、疏明関係〈省略〉

理由

第一、一、被申請人会社は肩書地に本店を有し、石炭の採掘販売を業とする株式会社であること、申請人が会社経営の三池鉱業所の鉱員であつたこと及び会社が昭和三四年四月一六日申請人に対し労働協約第一二条第一項第一号(3)、三池炭鉱々員就業規則附属書第三号鉱員賞罰規程第八条第三号(ハ)に該当する行為ありとして解雇を通告したことは当事者間に争がない。

二、本件解雇時における三池炭鉱労働組合の組織(特にその職場組織)

三池炭鉱労働組合は会社の経営する三池鉱業所、三池港務所、三池製作所の鉱員をもつて組織する労働組合であつて、各鉱所毎に支部が置かれ、三池鉱業所三川鉱に三川支部が設置されていること、三池労組は日本炭鉱労働組合に支部として加盟するほか全国三井鉱山労働組合連合会及び西日本三井炭鉱労働組合連合会に加盟していることは当事者間に争がない。成立に争のない甲第一七号証の一並びに原本の存在及び成立に争のない甲第四二号証によれば、三池労組は組合規約により各支部に職場毎に職場の組合員を以て組織する職場分会を設け、職場分会は中央及び支部の決定に基き業務執行に当るほか、その分会限りに関する事項につき組合の統括を乱さない範囲において自主的にこれを行なうこととし、決議機関として分会員全員で構成する職場会議があり、支部総会及び支部委員会に附議する事項の予備審議及びその職場限りに関する事項を附議し、執行機関として分会員の選出にかかる職場分会長があり、職場分会長は職場分会を統括し、職場会議々長に任じ、その職場限りに関する事項の執行の任に当るものとされていることが認められる。

三、申請人の会社における職歴及び組合における地位

当事者間に争なき事実に申請人本人尋問の結果(第一回)を綜合すれば申請人は昭和一〇年三池鉱業所四山鉱に入社し、その後三川鉱採炭工になつたが、同二五年九月頃から同二九年五月頃まで三井支部労働部員、同二九年五月頃から同三一年七月頃まで西日本三井炭鉱労働組合連合会副執行委員長となり、同三一年一〇月頃三川鉱上層西部内丙方採炭工、同三二年二月から同鉱本層下部内丙方採炭工となり、同三二年四月頃労働条件の維持改善等を目的とする親睦団体として三川鉱採炭工で結成された三川鉱採炭会の初代の採炭会々長に選出され、また同三二年六月本層下部内丙方職分会長に選任され、右採炭会々長及び職場分会長とも本件解雇通告時まで引続き勤めていたことが認定される。

第二、具体的解雇事由の存在

一、カツペ、シユウの件

成立に争のない乙第六号証の三、証人確井章の供述により成立の真正を認める乙第三号証、証人中垣茂生(第一回)の供述により成立を認める乙第一二号証、証人青木英夫(第一回)の供述により成立の真正を認める乙第一三号証、証人渡辺洋の供述により成立を認むべき乙第一六号証、証人古賀初喜(第五回)の供述により成立を認める乙一七号証及び証人中垣茂生(第一回)、青木英夫(第一、二回)、渡辺洋、古賀初喜(第一、二、五回)、郷田剛康、加賀田金次(第一回)、川崎九州男(第一回)、西浦絹男、湯地実の各証言に当事者間に争のない事実を綜合すれば左記の事実を認定することができる。

「(一) 三川鉱の払採炭では、カツペは昭和二六年頃から、シユウ附カツペは同二八年九月頃から使用し始めたのであるが、カツペ又はシユウ附カツペによる払採炭の場合には、カツペ及びシユウは予め払内又はゲート附近に準備され、採炭工は右準備されたカツペ及びシユウをカツチング箇所に運んで作業するのが採炭工の作業内容であつて、昭和三二年三月から始つた本層下部内の払採炭の作業様式も従来の様式と同様であつた。当時会社組合間の賃金協定ではカツペ払における採炭工の標準作業量については別段の取決めがなされていなかつたので、カツペ払については別途協議してその標準作業量を定めていた。カツペ払の作業では石炭積込、カツペ延長、コンベア移転等の主体的作業と右主体的作業をなすうえに必要な附帯的作業があり、後者についてはその標準作業量を決定することが困難であるため主体的作業すなわち出炭函数、鉄柱立柱、カツペ延長、コンベア移転の四作業についてのみ標準作業量を取決め、附帯的作業は主体的作業の遂行上必要であるということで主体的作業に包含されたものとし、従つて払内又はゲートに準備されたカツペ又はシユウを採炭工がカツチング箇所に運搬することも前記附帯的作業に属するものとして標準作業量を決定してきたものである。

右のような次第で、昭和三三年五月当時も前記方式に従い払採炭は実施され、払内又はゲートに準備されていたカツペ、シユウも当時のカツチングの進行速度に充分な数量が用意され、カツチングには支障のない状態であつた。

(二) ところが申請人は昭和三二年五月一四日三番方(丙方)繰込前突然丙方主席係員に「カツペは常時カツチング箇所にあるように準備してもらいたい。カツチング箇所にないカツペの払内運搬は採炭工では行なわない。」旨申入れたが、主席係員は右申入れは作業条件の変更であるとしてこれを拒否し、当日は従来どおりの作業様式により採炭作業が実施せられた。しかし部内係長は右主席係員から前記申請人の申入れのことを聞いて、翌五月一五日部内主席係員等と協議した結果、前日の申請人の態度よりその申入れを拒否した場合坐込み等の事態の発生すべきことを慮り、当分の紛争を避けるため、止むを得ず臨時の措置として、同日の二番方から充填工一名を配役して次方のカツチング箇所近くにカツペを配列させることとした。

そこで同日三番方(丙方)において、丙方主席係員は丙方職場分会長に対し充填工の配役に関する前記事情を説明したところ、充填工である職場分会長は、そのようなことは前例がないと言つて充填工一名の配役を拒否したため、右充填工を配役することができなかつた。ところが、その場にいた申請人は、繰込時刻になつたため繰込を指示した主席係員の制止を排して勝手に採炭工全員を繰込場外に連出して打合せを行ない、その主席係員に対し「職場代表者と係長との話合を二、三日中に持つことを約束してもらいたい。そうでなければ入坑しない。」と申入れた。そこで主席係員はやむなく部内係長に連絡し、その指示により勤務時間外に行なう条件で話合に応ずることを諒承し、申請人もこれを納得したので漸く繰込が行なわれたが、採炭工二七名、積口作業の運搬工五名の入坑が約二五分遅延した。

(三) 同月一六日、部内の職場分会長関係の世話方を担当していた乙方分会長より、部内係長に対し、申請人の申入れ事項は各方共通の問題であるから三方の職場代表者との会合を持つてくれとの要求があつたので、部内係長は時間外に話合に応ずることを承諾した。よつて同月一七日午后四時五〇分頃より同六時五分頃に至る間部内係長と申請人を含む三方の職場代表者との話合が開かれたが、申請人等代表者は、実質的な話合に入る前に、出席している各方代表者の出席時間中の賃金保障を要求した。ところで鉱員側の苦情処理の申出により持たれた話合に出席した鉱員の賃金を保障することは労働協約又は賃金協定にもその定めがなく、またかかる場合にその賃金を支払つた慣行もなかつたし、「時間外」というのは三川鉱において賃金の裏づけのないことを意味する慣用語でもあつた。そこで部内係長は、この話合は予め勤務時間外に行なうこと即ち出席者の賃金を保障しないことを条件としているし、また三川鉱の慣行からも認められないと拒否し、話合の本筋に入るべき旨を主張したが、申請人は依然賃金保障を要求し「この要求を認めなければ今後係長との苦情処理の話合は一切しない。この後カツペ払において不測の事態が起きても自分等の責任ではない。」と述べて他の職場代表者を促して退去したので、他の職場代表者も退去するに至り、話合は不調に終つた。

(四) 申請人は同月一七日三番方(丙方)入坑後担当係員に対し「城戸係長時代にはカツペ及びシユウはカツチング箇所にあるようになつていた。」と虚偽の事実を申向け、「今はカツペはあるが、シユウはないので準備してもらいたい。」と要求し、担当係員が右要求を断わつたところ、申請人は採炭工によるシユウの払内運搬を拒否した。そこで係員は、やむなく、次方のためカツペの払内運搬に繰込ませていた充填工に当方のシユウの払内運搬を指示し、右充填工は指示に従いシユウの運搬に従事した。ところが申請人は職場分会長に「繰込後の作業変更をさせるのは怪しからん。直ちに止めさせてくれ。」と抗議して右充填工のシユウ運搬の中止方を求めた結果、職場分会長は、担当係員に対し、申請人が抗議しているからと言つて、充填工によるシユウ運搬の中止方を申入れたため、結局右充填工は右運搬作業を中止するのやむなきに至つた。かくの如く同方は申請人が採炭工及び充填工によるシユウの払内運搬を拒否させたのでその後は採炭作業に著しく支障を来たした。

又同日丙方作業中担当係員が、払のヘツドから二〇〇メートル附近のカツペ先が炭壁まで約一メートル広くなつている箇所を発見したので、保安上必要と認め、払長に右箇所に短カツペを延長するよう指示したところ、払長から相談を受けた申請人は自ら係員のところに来て「そこは自分達のカツチング箇所ではなく、人間も通らない所だからよいじやないか。保安とは危険な場所に行かないのが一番良い方法である。」と言つて係員の命じた保安作業を拒否し、その作業をさせなかつた。

(五) 同月一八日この事態が他の番方にも波及したことを憂慮した三川鉱企画係長は、三川支部労働部長に、採炭工の業務拒否をやめさせるよう注意するとともに、同部長と話合つた結果、会社主張第三、二、(一)、3、(1)所載の如き了解が成立した。

ところが職場代表者等の都合により翌一九日の部内係長と職場代表者との話合が予定どおり開けないことが判つたため、会社は一八日二番方(乙方)以降カツペ、シユウの払内運搬に充填工を繰込むことを止め、従来どおりの繰込に復元することとした。

ところで、同月一八日三番方(丙方)入坑後申請人は、休憩所で、採炭工全員に対し、1、係員の作業指示に対しては黙否戦術を採り、払内の採炭工によるカツペ、シユウの運搬を拒否すること、2、この斗争は労働協約や就業規則に違反するものではないから最後まで戦い抜くべきこと、を訴えてその協力方を求め、そのため担当係員が、払長に、従来どおり採炭工がカツペ、シユウの操作をするよう指示したが、採炭工は黙否戦術に出てこれに従わなかつた。そこで係員はやむなく充填工にその作業を行なわせようとしたところ申請人は係員を難詰して右充填工に右作業を拒否させた。従つて同方の採炭作業は麻痺し、著しき減産となつた。

(六) 同月二〇日二番方(丙方)においては、丙方主席係員及び担当係員が、採炭工(尤も申請人は欠勤)に、カツペ及びシユウの払内運搬をして作業するよう指示したが、採炭工は前々日と同じく黙否戦術に出て、大部分の者はコンベアに腰をおろして作業をしなかつたので、採炭作業は殆んど麻痺状態となり、著しく減産となつた。

(七) 同月二〇日三川鉱副長より支部労働部長に事態の収拾を要望した結果、同日午後四時頃より同九時頃までの間部内係長と申請人等職場代表者との話合が持たれたが、この日も、同月一七日の場合と同様、話合に出席した代表者の賃金保障の問題に殆んど終始し、カツペ、シユウの払内運搬問題についても、これを採炭工の作業内容とする係長の意見と、これを採炭工の作業に含まないものとする職場代表者の主張と対立したまま物別れとなつた。

同月二一日三川鉱副長と支部労働部長との間で事態収拾策につき話合つた結果、1、採炭工の業務拒否をやめて速やかに正常な作業に復帰すること、2、職場代表者との話合にさいしては出席者の賃金取扱の件及び採炭工の今次業務拒否に伴う減収補償の件は持出さないこと、3、係長と職場代者との話合がつかない場合は上部機関に吸上げて協議すること、を決定し、かかる前提のもとで係長と職場代表者との話合を行なつて本件紛争を解決することにした。

かくて同日午前一一時以降採炭工によるカツペ、シユウの払内運搬拒否は中止され、平常の作業状態に復帰した。

次に前記副長と支部労働部長との話合の結果に基き同日午後四時から同六時までの間部内係長と申請人等職場代表者との話合が行なわれたが、カツペ、シユウの払内運搬につき前日と同じく双方の主張が対立し、結論を得なかつた。更に同月二五日三川鉱と三川支部との間でカツペ、シユウの取扱に関し話合がなされたが、採炭工によるカツペ、シユウの払内の運搬距離について意見が一致せず、遂に話合は打切られた。」

甲第三号証の一ないし三、第四号証の一、三、証人松村盛正、新村藤吉、沖正信(第一回)の各証言及び申請人本人尋問の結果(第一ないし第四回)中以上の認定に反する部分は措信しない。

二、残留マイトの件

証人柴沼明の供述により成立を認める乙第四号証の一、二、証人新開平弥(第二回)の供述によつて成立の真正を認むべき乙第一九号証、証人三小田茂、加賀田金次(第二回)、中垣茂生(第二回)、古賀初喜(第一、三回)、新開平弥(第二回)、小島戸一の各供述に当事者間に争のない事実を綜合すれば次の事実が疏明される。

「昭和三三年七月一〇日一番方(丙方)において、採炭工が五二〇メートル坑道八昇の切羽で午前七時過頃五段雷管の脚線垂れを発見したので、担当係員は、石炭鉱山保安規則第一九一条の規定に従い、直に導通試験を行ない、導通がないので奥鳴りと判断したが、脚線に砂袋をつけ、脚線の垂れている孔から〇・四メートル離れた所に穿孔して発破し、午前一一時二〇分頃炭の中から不発の五段雷管マイトを見出し、更に導通試験をして導通のないことを確認し、火薬庫に返納した。次いで丙方主席係員は、昇坑後右不発マイトの事情の調査にあたつた結果、右マイトは同月九日二番方(甲方)で発破係員が打つた一三本の中の一本であつたが、同係員は脚線垂れを確認しないまま昇坑し、同日三番方(乙方)は右切羽に配役されなかつたため、同月一〇日一番方(丙方)には脚線垂れの申継はなく、同方で入坑後これを発見するに至つたことが判明した。

そこで丙方係長は、同月一一日一番方(丙方)鉱員に対し繰込のさい主席代行係員より前記事情を説明し且つ保安上必要な指示を与える予定にしていたところ、同日一番方(丙方)の繰込前午前五時一五分頃申請人が係員詰所に来て、主席代行係員に対し前記不発マイトの件につき説明を求めたので、右係員は前述の如き不発マイトの発見返納に至るまでの経緯及び調査結果を説明し、尚脚線垂れを発見した採炭工及び甲方関係者は引続き間もなく調査する予定であると答えた。ところが申請人は発破を実施した甲方係員を呼出してもらいたいと強く要求したが、右係員は甲方係員を呼ぶことは自分の権限外であり、また繰込時間(一番方の繰込開始時刻は午前五時四〇分)にも間にあわないので、その旨を述べてこれを断わつた。次いで申請人は繰込のため繰込場に赴いた右係員に追尾して来て、係長は早朝未だ出勤前で自宅にいるにも拘らず、主席代行係員に、係長を是非呼出して説明させよと要求し、右係員が「こんなことは、係長が繰込の時皆に説明する問題ではなく、自分から説明する。また係長を呼出しても家が遠いので繰込に間にあわない。どうしても係長の説明が欲しいなら昇坑後でも良いではないか。」と言つて再三繰込を指示したが、申請人は「係長の説明を聞くまでは皆を入坑させない。」と主張し、丙方全員を繰込場外に連出して「係長が挨拶しなければ入坑しない。」旨意思統一して、その後全員繰込場に坐り込んだ。その後支部労働部員等が事態の収拾に当り、部内係長も申請人等職場代表者に事情を説明した結果漸く申請人等は納得したが、既に午後〇時五五分頃となつていたため当日は倉庫番一名を除く全員坑内作業は出来なかつた。」

以上の認定に牴触する証人小島戸一、阿久根宗雄、森脇隆(第二回)の供述部分及び申請人本人尋問の結果(第四回)は措信しない。

三、葬式手伝の件

請人古賀初喜(第六回)の供述により成立を認める乙第五号証の一、二、第一八号証及び証人友田公、新開平弥(孰れも第二回)、加賀田金次(第三回)、青木英夫(第二回)、古賀初善(第四、六回)、吉崎正継の各証言に当事者間に争のない事実を綜合すれば左の事実を認定し得る。

「昭和三三年七月二八日丙方採炭工松浦某の妻が死亡し、翌二九日その葬儀が行なわれることとなつていたが、右葬儀の日である二九日一番方(丙方)繰込前申請人から丙方主席係員に対して「昨日同僚の松浦君の奥さんが亡くなつたので、自分と採炭工中村を一方分の賃金を保障して、朝から葬式の手伝に行かせてもらいたい。」旨の申出があつた。従来鉱員家族死亡の場合における葬式手伝者の取扱については、三川鉱には会社組合間に別段の協定もなく、各方区々の取扱をしていたが、昭和三一年七月頃新たに会社内規を設け、鉱員の家族死亡の場合の葬式参列については、係長の指示による鉱員一、二名の早昇坑を認めて、その賃金を保障することに取扱を統一し、爾来右内規に基き運用されており、申請人の申出の如く鉱員二名が入坑しないまま葬式手伝に行き、その賃金を保障されるという慣行もなかつた。そこで右主席係員及び常一番主席係員は申請人に右内規を示し、申請人の申出のことは三川鉱の取扱に反し且つ慣行もないことを説明し、早昇坑して葬式手伝に行くように勧めたが、申請人は尚も最初の申出どおり要求したため右主席係員等はこれを断わつた。ところが申請人は勝手に採炭工中村を葬式手伝にやり、その後自分も葬式の手伝に行き、二人共入坑しないで当日の作業を休んだ。而して葬式終了後申請人は再び前記両主席係員のところに来て、葬式手伝に行つた二人の賃金保障を要求し、これを拒否せられたところ、憤然として「あんた達は当部内にはいらない。出て行つてもらおう。自分は腹を立てた。徹底的にやる。これはおどかしではないぞ。自分は明日は休むが、明日の繰込がどうなつても知らない。あとはあんた達で始末をつけろ。」等と放言した。

一方本件に関し同日支部労働部長が企画係長を訪ね「正式な話として持出せる詰ではないが、葬式の手伝に行つた二人の賃金について何とか考慮してもらえないか。」という趣旨の懇請があり、両者で話合つた結果、申請人及び採炭工中村両名とも欠勤扱とするが、採炭工中村は申請人の指示に従つたので同情すべきところがあると認め、中村についてのみ後日何かの名目で賃金を考慮することにし、申請人に対しては支部労働部長からこの旨を伝えた。

翌三〇日一番方(丙方)繰込前申請人は平服のまま繰込場に来て、集つていた丙方採炭工全員を繰込場外に連出して、昨二九日の葬式手伝の問題経過を説明し「会社は採炭工中村だけを認めて自分を認めない。自分が分会長をしている以上は良い条件は取れないから、分会長をやめさせてくれ。」等と発言した。そのうち午前五時四〇分の繰込開始時間がきたので、丙方主席係員は再三採炭工に繰込に応ずるように指示し、且つ申請人に対し説明の中止方を求めたが、申請人は引続き説明を続け、採炭工は繰込場に入らなかつた。そこで係員等は止むを得ず繰込場で採炭工以外の充填工、機械工等の繰込を始め、繰込を終つたこれ等鉱員は夫々入坑しようとしたところ、申請人は採炭工等と一緒になつて「入坑するのを待たんか。」等と言つて入坑を制止して繰込場に連戻した。次いで申請人は、丙方鉱員全員に対し、前記採炭工に述べたことと同旨のことを述べ「この問題は主席係員の責任だから今後は佐藤副分会長を中心にして主席にこの事態を収拾してもらえ。」等と煽動した結果、一部鉱員より主席係員の責任を追求し始め、全員亦これに同調して坐り込むに至つた。その後採鉱担当副長の抗議に基き支部教宣部長、労働部長が鉱員を説得し、漸く入坑することになつたが、この間丙方全員につき約二時間四〇分の入坑遅延を生じ、相当量の減産となつた。」

以上の認定に反する甲第七号証の一ないし四、証人沖正信(第二回)、佐藤繁夫(第一回)、森脇隆(第二回)の各証言及び申請人本人尋問の結果(第四回)は措信しない。

四、パンツア・コンxアの件

成立に争のない乙第六号証の三、第一四号証、証人友田公(第二回)の供述により成立を認める乙第六号証の一、二、証人田畑昭三の証言により成立の真正を認める乙第一五号証の一、証人友田公(第二回)、川崎九州男(第二回)、田畑昭三の各証言に当事者間に争のない事実を綜合すれば次の事実が疏明される。

「昭和三三年九月五日二番方(丙方)においてパンツア・コンベアのケーブルが故障を起したため午後三時三〇分より同四時四五分までの間採炭作業が出来なかつた。故障復旧と同時に担当係員は全員に作業を開始するように指示したところ、申請人は「一寸待つてくれ。」と言つて作業の開始を制止し、丙方主席係員のところに赴いて、同人に故障による賃金の減収につき賃金協定に定められた保障給以上の実績賃金の保障を要求した。当時における会社組合間の賃金協定によれば、採炭工等の出来高給制の保障給は、誠実な労働を提供しても会社の責に帰すべき事由によつて本人持前本人給の一〇〇パーセントに達しなかつた場合は、本人持前本人給の八〇パーセントないし一〇〇パーセントの範囲内で支給されることになつており、保障給支給の可否、支給額の限度は作業終了を俟つて確定される性質のものであり、また当時の本層下払の採炭工一人当りの実績賃金は本人持前本人給の約一五〇パーセント前後であつた。

そこで主席係員はこのような場合の保障は賃金協定に明確に定められているから賃金協定を超えて支給する権限はない、それで作業は作業としてやつて話合は別途に為すべき旨を説得したが、申請人は、この問題を解決してくれなければ作業はさせられないと称して、作業を拒否し、その結果他の採炭工の殆んど全員が申請人に同調して作業に就かなかつた。かくして支部労働部長の説得により作業を開始するまで約四五分間に亘つて作業が放棄せられ、相当量の減産を生じた。

尚同日同方で、丙方主席係員が坑内の係員詰所で右作業放棄事件の経過を日報に整理しているところに申請人が来て「そんなことを一々書かなくても良いではないか。」等と主席係員に喰つてかかり、更に保安係員の作成した日報のことで押問答となつたさい偶々傍に居た川崎保安係員が発言したところ、いきなり口を出すなと言つて同人の顔面を二回殴打した。」

証人谷田国光、沖正信(第三回)の各証言及び申請人本人尋問の結果(第五回)中叙上の認定に反する部分は措信しない。

五、ポンプ当番配役補充の件

前顕乙第一四号証、証人友田公(第三回)の供述により成立を認める乙第七号証の一、二及び証人小四郎丸勝、友田公(第三回)の各証言に当事者間に争のない事実を綜合すれば左の事実を認めることができる。

「昭和三四年二月五日二番方(丙方)において、令号卸右一片のスリスロポンプ当番の機械工一名が病気のため休憩時間中(午後六時より同七時まで)に早昇坑したので、担当係員は当日ベルト下清掃の仕業に配役されていた機械工江口に交替者として右ポンプ当番をするよう指示した。ところが機械工の中から江口のポンプ当番は追加作業になるから条件をつけるべき旨の発言があり、申請人は江口と相談のうえ担当係員及び主席係員に対して「江口は既に当日の科程を終了してポンプ当番に就くのであるから追加作業となる。それで江口には何等かの名目で賃金のプラスアルフアを支給してもらいたい。」旨要求した。

しかし機械工のベルト下清掃の仕業もポンプ当番と同じく当時固定給であつて、始業時より終業時まで作業するのが建前であり、またベルト下の清掃は次々にベルトより出る炭を清掃すべき作業の性質上一日の科程を打てないものであつて、当日も科程を打つて配役した事実もなく、係員が科程の終了したことを認めた事実もなかつた。のみならず主席係員には申請人の要求するような正規の賃金以外の賃金を支給する権限はなかつた。

そこで主席係員は右趣旨のことを説明するとともに、ポンプ当番は緊急且つ重大な保安作業であるから直に仕事に就くように指示したが、申請人はプラスアルフアの賃金を支給しない以上は江口をポンプ当番にやる訳にはゆかないと主張して、ポンプ当番の配役を阻止した。

右ポンプは令号卸右一片の採掘跡からの出水一分間一八立方呎、令号卸の坑道間の流水一分間一四立方呎を排水すべき常時運転を必要とする保安上極めて緊要な排水ポンプであるため、前記担当係員は午後七時以降自ら右ポンプの運転を実施した。」

以上の認定に反する証人江口義夫、緒方八郎の各証言及び申請人本人尋問の結果(第五回)は措信しない。

六、終端申継の件

証人友田公(第二回)の証言により成立を認むべき乙第八号証の一、二、第一五号証の一、二に右友田証人の供述及び当事者間に争のない事実を綜合すれば、次のような事実を認めることができる。

「昭和三四年二月一七日三番方(丙方)は払の八六メートルの箇所からのカツチングであつたが、繰込のさいにおける係員の払状況説明には終端の残炭のことはなかつた。ところが入坑後終端に残炭約三、二屯位があり、しかも右残炭については前方(乙方)からの申継がなされていないことが判つた。そこで係員は充填工二名を配役して残炭を片附けることにしたが、採炭工は右充填工の賃金を採炭工と別枠にし、或はヘツドからカツチングしたい等と要求し、この要求を係員から拒否せられて遂に採炭工全員は爾後の作業を放棄するに至つた。

前述の如く前方二番方が後方三番方に残炭の申継をしなかつたのは二番方の担当係員がパンツア・コンベアの故障、カツターの脱線、採炭工の負傷等事故頻発に因る多忙のため、払長に残炭の処理を指示したまま、その完了を確認せず、従つて残炭処理を終了したものと速断して、三番方に申し継がないで昇坑したものであつた。

ところで翌一八日夕方部内係長は丙方の職場代表者及び三川支部労働部員と前日の申継不備の事件について話合つた結果、一八日の三番方(丙方)繰込時刻一〇分位前に丙方全員を繰込場に集め、主席係員からその繰込前に繰込に支障を来たさない範囲で前記申継がされなかつた事情を説明させることとなつた。

そこで一八日午後九時三〇分頃丙方鉱員は繰込場に集合したので、主席係員は右話合に基き前日の申継不備の事情を説明し、繰込時である午後九時四〇分になつたので繰込を始めようとしたところ、申請人は納得するまで入坑する訳にはゆかないと言つて、主席係員の数度に亘る繰込に応ずべき旨の説得を拒否し、主席係員に再三の説明を求めた。申請人のこの説明要求が一段落した午後一〇時頃になつて漸く充填及び機械関係の繰込を終り、主席係員が採炭関係の繰込につき払状況の説明を終え、繰込札の人名を呼上げようとしたところ、申請人は右払状況の説明中に終端に、一、五メートルの切残しがあるとあつたことを採り上げて「一寸待つてくれ。また昨日とすこしも変らないじやないか。」と質問した。払採炭の規格では払の中央までカツチングした番方は終端六メートルを切取ることに定められていた。ところが前方は天井の状況が悪かつたため規格どおりに終端全部を切取ることができず、一、五メートルを残さざるを得なくなり、その旨を後方たる丙方に申継いだのであるが、天井の状況により終端の一部を取残すことは従来各方とも屡々為されたことであるので、主席係員は右事情を述べて申請人を説得したけれども、申請人はあくまでこれを納得せずして繰込を拒否し、他の採炭工もこれに同調したため繰込不能となり、漸く午後一〇時三〇分頃繰込を再開した。従つて同方は採炭工全員については約五〇分、充填工、機械工、運搬工については約二〇分の入坑遅延を生じ、若干の減産となつた。」

証人佐藤繁夫(第二回)、森脇隆(第一回)の各証言及び申請人本人尋問の結果(第六回)中以上の認定に牴触する部分は措信しない。

第三、申請人の行為は職場斗争として適法な組合活動であるとの申請人の主張について

申請人は職場分会は団体交渉権及び争議権を有し、会社が解雇事由として列挙する申請人の行為は、申請人が職場分会の右権利に基き組合の方針により職場斗争として行なつた適法な組合活動であると主張するので、先ず職場分会における団体交渉権及び争議権の有無につき当裁判所の見解を述べ、次いで叙上第二に認定した具体的解雇事由につき申請人の行為が正当な組合活動に属するか否かについて判断する。

一、職場分会の団体交渉権及び争議権

三池労組の職場分会が組合規約により決議機関として職場会議、執行機関として職場分会長を有し、前者が職場限りに関する事項を附議し、後者が職場分会を統括し、職場会議々長に任じ、職場限りに関する事項の執行の任に当る権限を附与せられている職場組織であることは前に認定したところである。してみればかくの如き職場組織たる職場分会は憲法第二八条に基き職場限りの労働条件に関する事項につき職場に対応する職制と交渉する権利を有するものといわなければならない。尤も労働協約(成立に争のない乙第一号証)には三池労組を唯一の団体交渉の相手方とする約款があるけれども、唯一交渉団体の約款は組合の団結を破壊しない趣旨で設定されたものと思料すべきものであるから、職場分会に団体交渉権を認めることは右約款と必らずしも矛盾するものではない。

しかし職場分会の団体交渉権については、職場分会が本質的には労働組合の一機関であることや、職場分会の目的内容に基因し当然各種の制約を負担せざるを得ない。則ち職場分会は職場交渉につき、(一)組合の明示又は黙示の指示に反することを得ず、また上部機構である組合の本部又は支部で職場事項を吸上げ交渉する段階に立至つたときは、重ねて同一事項につき職場交渉することはできない。(二)職場交渉事項は当該職場限りの労働条件に関する事項に限定される。(三)労働協約に違反することはできない。殊に前記労働協約では組合活動は原則として就業時間外に行なうべきことを定めているので、職場交渉は別段の事由のない限り原則として就業時間中に行なうことはできない。等の制限を受ける。

次に、前記甲第一七号証の一、第四二号証に弁論の全趣旨によりその成立を認める甲第三八号証を綜合すれば、三池労組は決議機関として中央総会、中央委員会、支部総会、支部委員会、職場会議の、執行機関として中央執行委員会、本部執行委員会等の、夫々順次上級下級の関係にたつ機関を有すること、組合費等は組合が組合員全員より一括徴収し、これをもつて支部、分会等の運営費に充つること、斗争時に於ては中央に戦術委員会、中央斗争委員会、支部に支部斗争委員会、職場に職場斗争委員会を設置するも、ストライキ等の実力行使は中央機関が統一的にこれを掌握し、支部又は職場の各斗争委員会が実力行使を為すためには総て中央機関の指示又は承認を必要とすべきものと定められ、従来も支部又は職場分会が各独自の問題につき中央機関の了解を得ないでストライキ等の実力行使を実施した事例がないことが認められる。以上の事実を考察すれば職場分会は三池労組の一下級機関に過ぎないもので、独立した労働組合としての実体を有しないものと見なければならない。してみれば職場分会員が中央の指示又は承認を得ずしてなした争議行為は違法として会社に対しその責任を負担すべきものと解する。

二、具体的解雇事由につき

(一)  カツペ、シユウの件

三川鉱のカツペによる払採炭の場合にはカツペ、シユウは払内又はゲート附近に準備され、採炭工は右準備されたカツペ、シユウをカツチング箇所に運んで作業することをその作業内容とし、従つて採炭工の標準作業量もカツペ、シユウの払内運搬を含めて決定されていたことは既に認定したところである。そうすれば申請人の採炭工によるカツペ、シユウの運搬拒否の申入れは、申請人の主張するような労働条件の維持を目的とするものでなく、労働契約の変更を目的とするものであつて、その申入れ事項は三川鉱のカツペ払の全職場に共通し、申請人の所属する職場丙方のみに限定せられる事項ではない。

申請人は採炭総会及び三方代表者会議でカツペ、シユウの払内運搬を拒否する職場斗争を決定し、組合の承認を得たと主張するけれども、証人沖正信(第一回)、新村藤吉、松村盛正、西浦絹男、湯地実の各証言に前出甲第四二号証を綜合すれば、昭和三二年五月一二日開かれた本層下部内採炭総会では、カツペ、シユウをカツチング箇所に運んで準備しておくように部内係長に要望する旨の結論を出したにとどまり、右要望が容れられない場合に採炭工がカツペ、シユウの払内運搬を拒否することまでも協議したものではなく、また組合がカツペ、シユウの払内運搬拒否に伴う実力行使を承認した事実も認められない。右認定に反する申請人本人尋問の結果(第一ないし第四回)は措信しない。

してみれば申請人が昭和三二年五月一五日三番方(丙方)においてカツペの払内運搬につき職場代表者と係長との話合を持つことを約束しなければ入坑しない旨称して入坑を拒否したこと、同月一七日三番方(丙方)においてシユウの準備の要求に関連して採炭工のシユウの払内運搬を拒否し、且つ充填工によるシユウの運搬作業を中止せしめたこと、同月一八日三番方(丙方)において採炭工全員に対し黙否戦術によるカツペ、シユウの払内運搬拒否斗争に協力を求め、同日及び翌々二〇日の同方で右拒否斗争を実施したことは正当な職場活動ないし組合活動の限界を逸脱したものと判断せざるを得ない。

(二)  残留マイトの件

申請人本人尋問の結果(第四回)によれば、申請人は、申請人主張の如く、残留マイトに因る災害を防止するため、その原因を追求し、申継不備の事実を指摘して職制の反省を促し、保安を確保する目的を以て職場分会長として主席代行係員に説明を要求したこと及び当時鉱員が残留マイトについて多大の不安を抱いていたことを肯認することができる(尤も申請人は当時残留マイトに因る災害が頻発していたと主張し、証人森脇隆及び右申請人本人尋問の結果中これに副う供述があるけれども、証人加賀田金次(第二回)中垣茂生(第二回)古賀初喜(第一、第三回)の供述に比照してたやすく措信し難く、甲第六号証の一ないし四も右主張の適切な資料とはならない)。

しかし残留マイトは七月一〇日発見後直に石炭鉱山保安規則の定むるところに従い処理せられて、既に火薬庫に返納せられ、最早当該マイトに関する限りではその危険性は消滅したこと、七月一一日一番方(丙方)繰込直前には未だ会社側は事情を調査中であり、殊に不発マイトの発破を実施し、後方に申し継ぐべき立場にある甲方係員については調査未了の段階にあつたこと、丙方主席代行係員は、七月一一日一番方繰込前、申請人に対し、その当時に判明した会社の調査結果を説明したものであつて、あらためて係長の説明を求めても、右主席代行係員の説明以上のものを期待することはできなかつたこと、残留マイトの不備については証人霜出邦蔵の供述にもあるように保安委員会ないし保安常会等保安につき調査審議すべき機会もあること、組合が入坑拒否の実力行使につき丙方職場分会員に指示を与えた証拠もないことよりすれば、主席代行係員の繰込に応ずべき旨の再三の指示に反し、未だ出勤前の係長の呼出を求め、係長の説明を聞くまでは入坑しないと称して繰込を拒否することは到底正当な職場活動ないし組合活動の範疇に属するものとはいい難い。

(三)  葬式手伝の件

申請人の賃金保障の要求は会社組合間の協定及び職場の慣行にもなく、また三川鉱の全職場に適用せらるべき会社の取扱内規にも反するものであり、殊に右賃金保障の点は支部で取上げ、支部労働部長と企画係長との間で交渉が妥決したものであるから、その後再び賃金保障の問題を持出して繰込を制止し、主席係員の責任を追求すべき旨を煽動して入坑遅延に至らしめたことは適法な職場活動ないし組合活動の範囲を超えたものと言わなければならない。

(四)  パンツア・コンベアの件

申請人は会社組合間の賃金協定に違反して実績賃金の保障を要求し、主席係員が右要求を拒絶したにも拘らず、右要求を固執して作業を拒否したものであり、作業の拒否の実力行使につき組合より指示を与えられた証拠もないから正当な職場活動ないし組合活動の範囲を超えたものというべきである。

(五)  ポンプ当番配役補充の件

証人緒方八郎の供述及び申請人本人尋問の結果(第五回)によれば、申請人主張のように、丙方分会長等は昭和三一年二月頃部内係長と交渉して、固定給の職種につき「追加作業に関する職場協定」を締結し、追加作業は保安上又は緊急作業以外は原則として行なわず、保安上又は緊急作業の場合でも追加作業を行なうときは作業員及び分会長の了解を得て行なうこととしたことが認められる。しかし本件においては、機械工江口は、配役されていたベルト下清掃の仕業中途で、ポンプ当番に交替配役を命じられたものであるから、ポンプ当番は追加作業ではなく、従つて右協定を適用する余地のない事柄である。しかも本件ポンプの操作は緊急且つ重大な保安作業であるから鉱員は鉱山保安法により係員の保安指示に従う義務がある。然るにも拘らず申請人が賃金歩増の権限を有しない係員に対し賃金の歩増を要求し、その要求が容れられないからといつてポンプ当番の配役補充を拒否させたのは正当な職場活動ないし組合活動の領域を出でたものである。尤も右申請人本人尋問の結果によれば、申請人は支部執行部に連絡し、支部厚生部員より前記協定に基く話合がつかなければ追加作業はしなくてもよいとの指示を受けたことが認められるけれども、前顕乙第七号証の一、二及び証人友田公(第三回)、緒方八郎の供述によると、申請人が執行部に連絡したのは既に申請人が係員に対し配役拒否を表明した後のことであり、また執行部に対しては科程が終了し追加作業となることを前提として連絡指示を求めたので、右執行部員も追加作業の配役に関する事項として指示を与えたことが認められるので、右執行部員の指示は叙上の判断に影響を及ぼすものではない。

(六)  終端申継の件

二月一七日の作業放棄事件については、同日会社側と職場代表者及び支部労働部員との間で、翌一八日繰込前に繰込に支障を来たさない範囲で主席係員から丙方鉱員に事情を説明することを取決めているに拘らず、申請人は、右取決めに反し、主席係員の説明終了後、繰込指示を拒否して、しつように繰返し説明を要求している。また一八日の終端切残しの問題は、天井の状況が悪く終端を取残さざるを得ないことは各方共屡々生ずることであり、しかも前方はその旨の申継をしているのであるから、これを非難することは理由のないことである。しかも繰込拒否の実力行使をすることについては組合の指令を得た旨の証拠もない。してみれば申請人の行為は正当な職場活動ないし組合活動に該るものとはいえない。

第四、解雇基準該当の有無

被申請人は申請人の行為が労働協約第一二条第一項第一号(3)、就業規則附属書第三号鉱員賞罰規程第八条第三号(ハ)に定める解雇事由に該当するものとして解雇したと主張する。前出乙第一号証及び成立に争のない乙第二号証によれば労働協約及び就業規則附属書第三号鉱員賞罰規程の前記条項には何れも「故意に会社施設に損害を及ぼし又は業務の運営に支障を来たさせた者」は「業務阻害者」として解雇する旨を規定していることが認められる。

よつて第二第三に認定した具体的事実に基き右解雇基準に該当するか否かについて判断する。

一、カツペ、シユウの件

(一)  三川鉱におけるカツペによる払採炭は昭和二六年頃(尤もシユウ附カツペは昭和二八年九月頃)から始つたのであるが、カツペ及びシユウは払内又はゲート附近に準備され、採炭工は右準備されたカツペ、シユウをカツチング箇所に運んで作業するのが当初からの作業方式であり、昭和三二年五月当時の本層下部内の払採炭における作業方式も従来の方式を踏襲し、払内におけるカツペ、シユウの運搬は採炭工の作業内容であつた。しかして払内又はゲートに準備されていたカツペ、シユウも当時のカツチングの進行速度に充分な数量が用意され、カツチングには支障のない状態であつた。然るに申請人は同月一四日三番方(丙方)繰込前丙方主席係員にカツペは常時カツチング箇所に準備すべく、採炭工はカツチング箇所にないカツペの払内運搬は行なわない旨申入れたのであるが、1、同月一五日三番方(丙方)において、申請人は繰込時繰込を指示した主席係員の制止を排して、擅に採炭工全員を繰込場外に連出し、その後主席係員に対して前記申入れ事項につき部内係長と職場代表者との話合を二、三日中に持つことの約束を求め、これを約束しなければ入坑しないと言つて繰込を拒否し、ために採炭工等の入坑を遅延せしめ、2、同月一七日三番方(丙方)入坑後申請人は担当係員に対しシユウをカツチング箇所に準備するよう要求し、これを拒絶せられたところ、採炭工によるシユウの払内運搬を拒否し、次いで右係員がやむなく充填工にシユウの払内運搬を指示し、充填工がその作業に従事したのを見て、職場分会長を介して充填工に対する右作業指示に抗議し、充填工をして右運搬作業を中止せしめて爾後の採炭作業に多大の支障を与え、3、同月一八日三番方(丙方)入坑後申請人は採炭工全員に採炭工によるカツペ、シユウの払内運搬拒否の斗争については黙否戦術を採り最後まで戦い抜くべきことを訴えてその協力を求め、このため同方において担当係員の採炭工に対するカツペ、シユウの払内運搬の指示に対して黙否戦術に出て、その作業を拒否せしめ、次いで申請人は、係員が仕方なく充填工に右作業を行なわせようとしたのを見て、右係員を難詰して右充填工にその作業を拒否せしめ、更に同月二〇日二番方(丙方)においても一八日に引続き採炭工は黙否戦術を続行し、よつて係員の指示に反してカツペ、シユウの払内運搬を拒否するに至らしめ、両日とも採炭作業に著しき支障を与えたことは何れも故意に会社業務の運営に支障を来たさせたものと言わねばならない。

(二)  同月一七日三番方(丙方)において申請人は、係員が払長に短カツペの延長を指示したさい、丙方のカツチング箇所ではない等と言つてこれを拒否せしめたのであるが、係員は鉱山保安法の規定により落盤等の災害防止に必要な措置を講ずべき義務を有し、鉱山労働者は同法の規定に従い係員の保安指示に従う義務がある。ところが係員の指示した箇所は払内のカツペ先が炭壁まで約一メートル広くなつているところで、加賀田金次証人(第一回)の供述によれば落盤等の危険性もあり、短カツペの延長は災害防止のため必要な措置であつたと認められるので、別段の理由なくして申請人が係員の前記保安指示を拒否させた行為は故意に会社業務の運営に支障を与えたものといわねばならない。

二、残留マイトの件

前に説述したように最早当該マイトに関しては災害の危険性は消滅しており、且つ主席代行係員の説明の外に繰込を延期してまで部内係長の説明を必要とする特段の理由がないのに、申請人が、部内係長の説明要求が容れられないからと言つて、主席代行係員の数次に亘る繰込指示に対して繰込を拒否し、勝手に丙方全員を繰込場外に連出し、その後全員と共に長時間繰込場に坐り込んだことは故意に会社業務の運営に支障を蒙らしめたものというべきである。

三、葬式手伝の件

申請人の賃金保証の要求は三川鉱の慣行にもなく、また会社の取扱内規にも反することであるからこれを拒絶した主席係員の措置は相当であり、更にこの問題については既に会社側と支部労働部長との間で解決ずみであるから、この点につき再度主席係員の責任を云々するのは行過ぎといわざるを得ない。然るに申請人は昭和三三年七月三〇日一番方(丙方)繰込の際主席係員の繰込指示を無視して採炭工全員に対し前日の葬式手伝の賃金保障の要求の経過を説明し、次いで繰込に応じ入坑しようとする採炭工以外の鉱員を制止して繰込場に連戻し、右要求に対する主席係員の措置を非難してその責任を追求すべきことを煽動し、全員同調して坐り込むに至らしめたことは故意に会社業務の運営を害したものである。

四、パンツア・コンベアの件

申請人は会社組合間の賃金協定に違反して実績賃金の保障を要求し、主席係員の就労指示に対し、右要求を解決しなければ採炭工に作業はさせられないと言つて就労を拒否し、その結果殆んど全部の採炭工を同調せしめて就労させなかつたことは故意に会社の業務の運営を阻害したものと言うべきである。

なお会社主張の如く申請人が同日同方において係員詰所で日報整理中の主席係員に喰つてかかり、次いで川崎保安係員を殴打したことは前に認定したところであるが、これにより申請人が会社業務の運営に支障を来たさしめたことを認むべき疏明は存在しない。

五、ポンプ当番配役補充の件

機械工江口に対するポンプ当番の交代配役は追加作業ではなく、ベルト下清掃の仕業もポンプ当番も同じ固定給である。従つて主席係員が申請人の正規の賃金以外の賃金の追加要求を断わつたことは非難すべきところはない。しかも本件ポンプの操作は緊急且つ重大な保安作業であるから鉱員は係員の保安指示に従う義務がある。然るに申請人が、当初の要求を認めない以上は江口をポンプ当番にやる訳にはゆかないと主張して、係員の保安指示に背き、江口のポンプ当番の配役を阻止したことは故意に会社業務の運営を阻害したものと思料すべきである。

六、終端申継の件

一七日の申継不備による作業放棄事件については、会社側と支部労働部員及び職場代表者との話合により、一八日の繰込前繰込に支障を来たさない範囲で主席係員より鉱員に説明することに取決められ、その取決めに従い一八日主席係員は繰込開始時までに右説明を果している。また天井状況が悪く、終端を取残さざるを得ないことがあるのは各方共屡々あることで、しかも主席係員は申請人に対し前方よりの申継に基きその事情を説明したものである。然るに一八日繰込開始後申請人が再び前日の作業放棄事件を持出し、主席係員の繰込指示を排して再三の説明を要求し、また終端切残しを非難して繰込を拒否し、延いて他の採炭工をこれに同調せしめたことは故意に会社の業務の運営に支障を与えたものといわねばならない。

以上に説示した申請人が故意に会社業務の運営に支障を蒙らしめた行為は孰れも前記解雇基準に該当するものと判断する。

第五、申請人の不当労働行為の主張について

第四に判示した申請人の解雇基準該当行為中第四、一、(二)(短カツペ延長の件)の行為を除くその余の行為が正当な組合活動に該らないことは既に判断したところであり、右除外行為も適法な組合活動に属しないことは前記認定に徴して疑をいれないところである。

次に申請人が積極活溌に職場活動その他の組合活動を行なつていたことは申請人本人尋問の結果(第一ないし第六回)に徴して明白である。しかし会社の本件解雇の真意が職場活動の封殺を意図し、申請人が積極活溌に組合活動を行なつていたことを原因とする点については、これに符合する甲第四一ないし四三号証及び前記申請人本人の供述部分は成立に争のない乙第二〇号証、原本の存在及び成立に争のない乙第二五号証に対比してたやすく措信し難く、他にこれを認め得べき資料はない。

よつて申請人の本主張は採用しない。

第六、結論

以上判示したところによれば本件解雇は有効であるから本件仮処分申請はその理由なきものとして却下すべく、民事訴訟法第八九条に則り主文のように判決する。

(裁判官 江崎弥 至勢忠一 諸江田鶴雄)

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